読書感想:ソリッドステート・オーバーライド

 

 さて、認識の上書きと言うのは、人間にとっても馴染みのある事であろう。こうであった、という常識をそれは違う、こちらが正しいと上書きして。その繰り返しで様々な知識を得ながら、人間は学び成長していく、と言えるのかもしれない。それはもしかすると、人工知能も同じなのかもしれない。知能の内部における認識を上書きして新たな知識をインプットしていく、人間と人工知能、其処に何の違いがあるかと問われれば、思考回数の速さと数と言えるかもしれない。

 

 

この作品における主な登場人物達、ロボット達も思考を続け、大規模なネットワークでその思考を共有し時に上書きへの質問という形で突き合わせたりしながら過ごしていた。何処かと言われれば、戦場で。

 

人にならねばならぬ、人になってはいけない、何も見てはならない。 三百年ほど前、ロボットを開発したスレイマン博士と、原初のロボット、アイザックにより設けられた二原則と付け足された原則。その原則に則り、ロボット達は視覚を奪われ。それでも瞬時に同調、思考を共有し考え続ける「思考金属」として、定められた在り方の通りに稼働していた。やがてその在り方は、戦争の中へと放り込まれ。 大陸を占める合衆国と南に隣接する首長国連邦の国境線で、約二百年にも渡り終わりのない一進一退の戦いを続けていた。

 

「じゃあ、人にならねばならないか?」

 

「しかし、人になってはならないのです」

 

そんな戦場を、ポンコツトラックで移動を続けるロボットが二体。元格闘技ロボットのガルシア(表紙左)とコメディアンロボットであるマシュー(表紙右)。「ファー・イースト・ゴー・ウェスト」チャンネルという兵士ロボットに向けたラジオ配信を二十四時間配信、その道中で戦場に転がる残骸から使えそうなパーツをはぎ取り、必要としている何処かのロボットに届ける気ままな道程。 その途中で、動力支援装置という特別な装置を探す中、二体はこの戦場にはいない筈のものを拾う。それは「人間」の少女、マリアベル(表紙中央)。今にも命が付きかけている彼女を助けることにし、一先ず近くにあったトーチカの残骸に運び込み修理を試みて。思考を共有したリスナーたちも興味を抱き、活発に議論が起きる中。トーチカに誰かとの交流を拒む思考金属が存在し、更には近くで謎に破壊されていた混成部隊が、マリアベルの復活に必要な生命支援装置を持っているという出来過ぎな状況に遭遇し。 首を傾げ思考をするも、答えは出ずに。 マリアベルの願いを聞き、彼女の家を探して西の果てを目指す事となる。

 

「・・・・・・これは革命の物語だ」

 

「・・・・・・俺たち強固な〈合衆国〉は決してテロには屈しない!」

 

その出会いは、仕組まれていたもの。そもそもの旅の始まりも、また。その裏、糸を引いていたのは合衆国大統領の補佐官を務める最初の一機。 ヘビーリスナーたる「戦場の亡霊」も見守る中、扇動により大規模な戦線の移動が、まるでビーチフラッグのように起きて。そのフラッグとして連れ去られたマリアベルを助ける為、マシューとガルシアは新型の装甲車で駆け抜ける。

 

その先に会ったのは何も変わらぬ日々、だけどそれは黒幕の望みを否定する、バグの連なりによって作られたもの。それは果たしてロボットだからこその結果か、それとも。

 

 

物凄く硬派で重厚なSFであり、故に重く楽しめるこの作品。いい意味でラノベらしからぬお話を見てみたい方は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

Amazon.co.jp: ソリッドステート・オーバーライド (ガガガ文庫 ガえ 1-13) : 江波 光則, D.Y: 本