読書感想:あたしは星間国家の英雄騎士! (1)

 

 さて、先に言ってしまうとこの作品は、「俺は星間国家の悪徳領主!」シリーズの外伝である作品である。ではこの作品は何を抜き出し、語るのかという事であるが。Sリーズ本編を読まれている読者様の中でこう思われた事のある読者様はおられぬだろうか。もっと機動騎士の戦いを見たい、ロボットが戦場に踊るスペースオペラを見てみたい、と。そんな願いをかなえてくれるのがこの作品なのである。

 

 

だがリアムを主人公にするわけにもいかぬ。何せ彼が戦場に出たら一方的にしかならぬから。そして彼の周りに舞台を作るわけにもいかぬ。何処で本編と齟齬が出るか分からぬので。

 

ではどうすべきか。新主人公、リアムの周りから離れた舞台を用意すればいい。そういう事なのだ。

 

バンフィールド家の旧騎士達が改革により一掃され、騎士団を新たに編成せざるを得ず。少し期間を早めながらも育成された千人ほどの騎士。その中にこの作品の主人公である少女、エマ(表紙中央)の姿があった。

 

「だったら―――あたしは騎士様になる!」

 

 かつて宇宙海賊を退けたリアムの雄姿に憧れ、自身もまた騎士を志し。だが、彼女は所謂落ちこぼれであった。射撃は得意なれど、機動騎士の操縦を含め他全てが落第点。しかも初陣で、標的に手心をかけてしまい殺せず。教官であるクローディア(表紙右)に最低の烙印を押され、彼女は誰もいない辺境惑星、エーリアスに配属されてしまう。

 

それでもやる気は燃え上がる、諦めたくないと前を向く。だがエーリアスで待っていたのは旧式の兵器たちとやる気のない部下達。左遷されてきた旧騎士、ダグには疎まれ騎士のなりそこないであるラリーには苛められ。整備士であるモリ―以外に味方がいない中、簡単な筈の初任務ですら失敗してしまう。

 

「この俺が期待してやる」

 

 だが、不意の襲撃の中、修理中の機体で見せた挙動が何かの始まりを告げる音となる。判明する、エーリアスにあった敵の本拠地。援軍として派遣されるクローディア達。そしてエマの元にも、彼女のデータに注目したリアムから新たな機体が届けられる。

 

その名は「アタランテ」(表紙左)。高性能量産機をベースに新型動力炉を組み込むも、アシスト機能が配されまともに動けず、それどころか自壊の可能性すらある欠陥機。

 

だが、それこそがエマにとっては必要なものであった。彼女は決して落ちこぼれには非ず。ただアシスト機能がそもそもない、という本来あり得ぬ条件に恵まれなかっただけ。正に彼女にとっては天啓。彼女の目の前、クローディア達の本隊は罠にかけられ、徐々に追い込まれていく。

 

そこへ駆けつける、エマとアタランテ。その手に握るのは、モリ―の秘蔵兵器である数々の武装。一見すると無茶苦茶な戦い方ながらも、確実に敵の数を減らし。敵の巨大兵器へと肉薄していく。

 

「お前が―――あの人を語るなぁぁぁ!!」

 

 許せぬ悪への怒り、リアムを語られた事への怒り。炎のように燃える気持ちで秘蔵兵器、時代錯誤な漢の浪漫武器を繰り出し全てを終わらせる。「稲妻」と呼ばれるようになる、速きに過ぎる動きで。

 

泥臭くも熱さ溢れる、機動兵器同士の戦いが見所であるこの作品。本編ファンの皆様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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