読書感想:無慈悲な悪役貴族に転生した僕は掌握魔法を駆使して魔法世界の頂点に立つ ~ヒロインなんていないと諦めていたら向こうから勝手に寄ってきました~

 

 さて、転生ものにおける転生先の一つのテンプレとして悪役転生というものがある訳である。悪役に転生し、このままでは未来に自分が破滅するから、悔い改めて未来を変えますというのが王道の流れであるが。最近の流行の一つとして、反省せずそのままいくというのも増えている。それもまた摂理、であるかもしれぬ。そもそも一つの作品の世界に転生してもやっていける、くらいに一つの作品を暗記し極めていると言う方はどれだけおられるだろうか? 私とて今まで読んできたラノベの世界の何処かに転生する、となったら無理である。物語を崩壊させる自信しかない。

 

 

この作品もまた、悪役に転生ししかし反省しない主人公のお話であり。心のままに悪のままに突き進む事で、結果的に周囲を見返していくお話なのだ。

 

もう名前も思い出せぬ小説、その小説に登場する極悪無比なる貴族令息な悪役、ヴァニタス(表紙中央)に転生した、最早自分の名も思い出せぬ日本人の魂。自分の前世の事は何も覚えておらず、憶えているのはヴァニタスはこのままでは全てを奪われ最後は奴隷となって破滅する、という事のみ。

 

「そのうえで言おう。僕は彼と同じく思うがままに生きる」

 

「私たちの愛する息子の皮を被った怪物。君の行く末を私たちに見せてくれ」

 

 さて、ではヴァニタスが反省するのかというと。反省する気もなかった。転生した自分とは無関係、という開き直りをぶっちゃけて。殺したければ殺せ、とこの世界での父母に選択肢を突き付けて。一先ず受け入れられ、彼はこの世界を謳歌する事に決める。

 

「だから僕は力が欲しい。大切なものを守れる力を。奪われないための力を」

 

心のままに、思いのままに。守りたいものは守り、邪魔をする奴はぶっ飛ばす。そう決意し動き出す彼、その手に宿っていたのは本来の力である伝説の魔法、掌握魔法。その魔法の可能性を模索しつつ、守り抜くための力を、と貪欲に求めていく。そんな彼の事を、本来の彼にひどい目にあわされた奴隷三人娘、クリスティナ(表紙右)、ヒルデガルド(表紙左上)、ラパーナ(表紙左下)は疑念と驚嘆の目で見つめ、そう簡単には信用できないと疑惑の目で見つめてくる中、ヴァニタスは元日本人の誠実さで真っ直ぐに向き合っていく。

 

「必死で言い訳を探しておられるのかなと」

 

そんな彼の前で巻き起こる、仮初の婚約者、マユレリカの誘拐事件。無粋な盗賊に攫われた彼女を救いに行くのは、彼女の為ではなく自分の為。しかし彼女だけは気づいていた、その内心の優しさと誠実さに。自分を誤魔化して納得させながら動く狡猾さと高潔さに。そんな一面を見出したから、奴隷の面々と真の意味での絆を結んでいくのである。

 

意外と容赦ない世界観の中、反省せずに己が道を往く爽快感のあるこの作品。最近のトレンドな転生の形が好きな読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

Amazon.co.jp: 無慈悲な悪役貴族に転生した僕は掌握魔法を駆使して魔法世界の頂点に立つ ~ヒロインなんていないと諦めていたら向こうから勝手に寄ってきました~ (GA文庫) : びゃくし, ファルまろ: 本