さて、「天は二物を与えず」なんて言うけれど、そんな事は無いのかもしれない。二物以上を与えているから「万能の天才」なんて呼ばれるような人間が存在するのかもしれない。それはラノベにおける異世界主人公にも言えるかもしれない。モテるくらいのスペックと、磨けば光る圧倒的な素養。少なくとも二物は持っている、と言えるのかもしれない。
ではこの作品の主人公、ルーク(表紙中央)はどうなのであろうか。貴族と言う、中世的な世界では高い家柄、そして戦闘に必要な魔力、それは底なし。正に「怪物」と言う他ない。しかし彼は、実はラノベの世界であるこの世界では、「やられ役」である。慢心で格下である本来の主人公を侮った事で、破滅に繋がるのである。
「・・・・・・そうだ。努力してみるか」
そんな存在に転生している、と知った何者かもしれぬ意識。その意識はルーク本来の意識を乗っ取るまではいかず、性格は傲慢なまま。だが努力の必要性という方向性は齎し、本来の流れではしない筈の努力を始める。
元来、天才性だけでごり押しできた彼が、努力と言う土台を得てしまったらどうなるか。それ即ち、怪物の誕生。圧倒的な学習力により、どんどんと戦闘力を増していく彼。そんな事をすれば、ラノベの流れは歪む、絶対に。その歪みは、変態と言う名の狂信者を彼の周りに連れてくるのである。
元騎士団副団長である執事、アルバートが真っ先に彼に魅了され。過保護を増した父親が魔法を教える為に手配した魔法狂いの魔術師、アメリアがルークが秘めていた「闇属性」の虜となり。更には魔法発現を祝うパーティで矛を交える事となった有力貴族の令嬢、アリス(表紙右)が彼の強さに被虐趣味を芽生えさせ、婚約者となる。
正に彼の存在は特異点、周りの全てを歪め、予想外の方向へ突き動かしていく。変人ばかりな状況にルークが胃を痛める中、運命の時である魔法学園入学の時が訪れる。
「知りたいんだろ? 俺とお前の距離を。―――見せてやるよ」
そこで出会うのは、アリスのライバルであるミア(表紙左)、そして本来の主人公であるアベル。アベルとの決闘、本来は負けるはずのその戦い。だが、既に最強クラスの彼は、その戦いを一方的に勝利で終わらせ。アリスの心の枷をぶっ壊し、その兄でもある教師、ヨランドまでも魅了し。更にはミアまでも、その掌中に取り込むことに成功する。
(君は―――『王』こそが最も相応しい)
だがしかし彼はまだ知らない。父親とヨランドが組んでとんでもない悪だくみをしている事は。知らぬ間に、彼を中心とする大派閥が造られようとしている事も。
最強で傲慢だからこそ爽快に、そして周りが曲者揃いだからこそコメディに。悪とはこういうものだという面白さがあるこの作品。悪人系主人公が好きな読者様は是非。
きっと貴方も満足できるはずである。
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