読書感想:怠惰な悪辱貴族に転生した俺、シナリオをぶっ壊したら規格外の魔力で最凶になった

 

 さて、最近ゲームやら漫画等のサブカル系の悪役に転生し、ストーリーをぶっ壊す。改心せず悪役のままに突き進む、というのが一つの流行を見せている訳であるが。そこに作者様や読者の望むものがあるとしたら、どんな世相があるのだろうか。いい子なんかじゃなく、悪い魅力というのに皆様憧れがあったりするのだろうか?

 

 

と、まぁちょっとぼんやり考えてみたりしたが、そこに答えは出ない訳で、すると考えるのはひとまず避けておいた方がよいだろう。 という訳でこの作品もまたそんな悪役貴族に転生するお話であり。この作品の魅力というか見所と言うのは、「楽しむ」という事と、シナリオをぶっ壊すのを躊躇していないと言う事なのであろう。

 

とある大人気異世界ファンタジーの学園もののゲーム、そこには悪役ゴミ屑最低凌辱悪役貴族、ヴァイス(表紙中央)。母親と幼い頃に死別、父親は多忙により誰も止める者がおらず、好き放題。最後は主人公にコテンパンにされ、全ての悪事を暴露されて魔王の召使となり、盾にされて死ぬ登場人物。ある日、メイドのリリス(表紙左上)を日課の凌辱をしている際、その中で異世界の魂が目覚め。一先ずリリスを解放し、使用人たちにも謝罪して。とりあえず身近な人への態度から悔い改めようとしていく。

 

「今まですまなかった」

 

一先ず反省、そこで思う、これからの未来。このままでは未来が変わらない、ならばどうすればいいのか。簡単な話だ、努力するしかない。圧倒的な力を付けて破滅ルートを回避するしかない。貴族のコネを生かして、Sランク冒険者のミルクに剣術と魔術を学び。スパルタ修行、飴と鞭の連続に必死に食らいついて。必死にたゆまぬ努力を続け、少しずつ力を付けていく。

 

そんな日々の中、かつて自分が傷つけてしまった貴族令嬢、シンティア(表紙右)とも再会し、きちんと謝罪して。元婚約者の関係から、一先ずフラットな関係に戻ろうとした中、久しぶりに会った父親の勘違いで、何故か彼女と婚約する事になり。彼女もミルクの指導を受け、成長していく事となる。

 

やがて巡ってきた、全ての始まり、運命を決定づける場所であるノブレス魔法学園、入学試験。リリスやシンティアと共に圧倒的な力を示しあっという間に合格した其処は、ポイントと呼ばれる物差しが全て、ゼロになれば退学という、庶民にも門戸が開かれてはいるが弱者には容赦のない、実力至上主義な場所。

 

「勘違いするなよ。俺は何も助けようとしてるんじゃない」

 

そんな場所で出会うのは、本来の主人公であるアレンと、将来的に死んでしまうその幼馴染、シャリー。 ヴァイスが強くなり過ぎた事により既に本来のシナリオは瓦解している、故にここからはヴァイスにとっても未知。そんな中で、敵として立ち塞がった生徒たちを纏めて退学に追い込んだり、理想論に燃えるアレンに呆れたり、更にはおちこぼれの少女、カルタの飛行魔法を見出し導いたり。

 

心のままに、楽しんで。 既にシナリオ崩壊は明らか。だがそれがどうした、知った事かと。何も応えぬ本来の「ヴァイス」に苛立ったりしつつ、しかしアレンとの激突を内心でも楽しんで、狂暴な笑みで。

 

「―――借りは返す。それがファンセント家の掟だ」

 

そして、訪れる危機。強大に過ぎる敵に立ち向かおうとするアレンを見て、本物の「ヴァイス」が抱いていた憧れを知り。羨ましいと言う感情に頷き、共闘し。さらに上を目指すべく決意を固めるのである。

 

王道なファンタジーで無双で、それぞれの思いが見える群像劇風で。そんな中にそれぞれの思いが真っ直ぐにあるから面白いこの作品。気持ちのいい悪人の姿を見てみたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

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