読書感想:あと1ヶ月で転校する僕の青春ラブコメ

 

 さて、時に画面の前の読者の皆様の中で転校と言うイベントを経験された事のある読者様はおられるだろうか。大体の場合、経験する原因は親の都合である、と思う次第であるが人間関係のリセット、というデメリットが起きてしまうのは意外と痛い所であるのかもしれない。 しかし今の時代であれば、ある程度の年齢であればスマホと言う便利な機器を持っている筈なので、連絡先を知っていればどれだけの距離が離れていても、連絡は出来る訳で。昔と比べれば、転校と言うイベントも特別性は低くなっている、のかもしれない。

 

 

だがしかし、やはり今まで傍に居た者が急にいなくなる、という本質は変わらないので。寂しくなるのは明白、なのである。この作品はそんな、転校と言うタイムリミットがある中で始まる青春、そしてラブコメなのである。

 

「よく覚えてたな」

 

母子家庭で育ち、押し付けられたクラス委員の仕事に真面目に励む少年、誠治。幼馴染でありクラスメイトの翔や千亜希と賑やかな日々を過ごすある日、新学期始まって少しして。転校生としてやってきたのは悠乃(表紙)。彼女もまた、幼馴染であり小学五年生くらいに急な転校により離ればなれとなってしまった相手。旧交を温め、再開を懐かしみ。幼馴染四人による日々が、始まろうとしていた。

 

『ごめん、私、やっちゃったかも・・・・・・』

 

が、しかし。誠治には言えない、幼馴染たちにも隠している事があった。それは母親のデキ再婚、という切っ掛けとしては珍しい部類であるかもしれぬ理由により約一ヶ月後に転校する、というもの。しかし母親越しに悠乃にバレてしまい。確認前に翔と千亜希に聞いてしまった事で。あっという間に幼馴染達に知られてしまう事となる。

 

「アルバム作ろう!」

 

「後悔するよ、それ」

 

静かに、転校したかったのに。知られてしまった。知った悠乃はいい意味での涙で送るために、アルバム作りをしようと提案し、あっという間に幼馴染達どころかクラスメイト達も巻き込まれ。 思い出の写真を再現すると言うコンセプトで行こうとする中、友達ではない誰かが写っていた写真に首を傾げたりしながら。そんな中、悠乃の何気ない言葉が誠治の中で引っ掛かって。彼女が抱えた、「後悔」というものを感づかせていく。

 

「はは、ゆーのやつ泣いてるじゃん」

 

その「後悔」、それは彼女の転校に関係するもの。去っていく前に、せめて置き土産に。泣かせようとしてくる分、自分も泣かせて見せると。その後悔、かつて打ち込んだバドミントンに絡むものを晴らす為誠治は奔走し。悠乃は嬉し涙と共に、後悔を晴らす。

 

残り時間はあと半分、だけどまだ、隠された思いが残っている。その全ては、晴れるのか。

 

残り時間があるからこそアオハルが際立つ、青春ど真ん中なこの作品。若い息吹に触れてみたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

Amazon.co.jp: あと1ヶ月で転校する僕の青春ラブコメ (MF文庫J) : 絵戸太郎, 雪丸 ぬん: 本