読書感想:ハブられルーン使いの異世界冒険譚

 

 さて、時に画面の前の読者の皆様。常識、というのはこの世界に当たり前に存在しているが例えば日本における常識は、外国における常識ではない、というのはご存じであろう。つまり何が言いたいのか、という訳であるが。例えば現実世界における常識は異世界における常識、という訳でもない。つまり、異世界ものを真っ直ぐに、丁寧に描いていくと。そういった違う世界への常識への迎合、というのが重要であるのかもしれない。

 

 

その辺りも含めて描いていくのがこの作品であり。まっすぐに、王道、そしてハードに描いていくのがこの作品なのである。

 

とある異世界の王国にクラスメイト達と共に召喚されるも、作中で完全に明かされる事はないが、クラスメイトと色々あって仲たがい、単独で拠点であった王城を飛び出した少年、司(表紙左)。召喚時に付与された恩寵は、時代遅れの「印術」。それだけしか武器がないものの、それだけを頼りに必死に生き抜き。裏切りや尊厳の損壊等酷い目に遭いつつも彼は今、悪い存在と教えられてきた「魔族」の街で、「自由傭兵」といういわば使い捨て可能な戦力として日々、お金を稼ぎながら暮らしていた。

 

「それでも助けて欲しいなら、ちゃんと言えよ」

 

そんな彼の元に押しかけて来たのは、幼馴染でもある美穂乃(表紙右)と、志穂乃の姉妹。異世界人特有の病に侵された志穂乃はもう寝たきり、命の灯はもう風前。それを治したいと願う美穂乃は、しかしもう一人の幼馴染でもあり恋人でもあった恭弥に捨てられたらしい、という事実を受け入れられず。司に一縷の望みをかけてお願いし。しかし司は、どこまでもドライに対価を要求し。結果として払えるものがなかった美穂乃は、司にその身を捧げる事となる。

 

嫌だ嫌だ、と言っていながらも体は気持ちよくなることを止めず。被害者と言う意識で、司を悪役にして責任を押し付けて。だが、美穂乃はすぐに知っていく事となる。この世界、そして今いる魔族の世界、というのは王国の、無論日本の常識も通用しないと言う世界だと言う事を。

 

自由傭兵、その命は安く。助けようと思った逃走者には裏切られ、司は目の前で変わってしまった様子で容易く殺人を犯し。 そして教えられていたように魔族は決して悪、という訳ではなく。寧ろ魔族の街では人間である彼らこそが、侮られ蔑まれるもの。酷い態度をとられるもの。

 

「だから、私にできることはなんでもするって決めたの」

 

そう、甘えているだけでは、押し付けられていると認識するだけでは助けられない。だからこそ、まだ足手まといかもしれないけれど、出来る事を。使う使われる、だけではなく互いに協力する関係を。彼女の心の変化、そして始まっていくのは本当の協力関係なのだ。

 

エロを盛り込みつつハードめな異世界を骨太に描いていくこの作品。太目な異世界ファンタジーを読んでみたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

ハブられルーン使いの異世界冒険譚 (GCN文庫 オ 02-01) | 黄金の黒山羊, 菊池政治 |本 | 通販 | Amazon