さて、時にこの世の中には「親ガチャ」、なる言葉が今現在存在してしまっている訳であるが、そもそもに考えてそんな言葉は本来、存在していてはいけない、ものであるのかもしれない。だがそれも仕方のない事、であるかもしれぬ。何故なら今この世の中には、「毒親」なる概念が定着してしまっていて。毒親による事件が時に世間に衝撃を齎す程に存在してしまっているからである。
しかし、親から生まれたからには親を選べない。そして、子供である以上親の庇護の下からは逃れることは、そう簡単には出来ない。そう考えたとて、やはり毒親という概念は早々にこの世の中から消失して欲しいものである。
さて、ではこの作品における主人公、流稀の両親はどうなのか、というと。厳密に言えば、毒親とは言い切れぬかもしれぬ。流稀に対する愛情は確かに持っている。しかし、押し付け気味で更にかなり頑固、という毒ではなくても結構面倒くさい親である。
市内の総合病院に勤める医者である父親と、その父親の言いなりである母親の元に生まれた流稀。生まれながらにその将来の道は、医者に設定されており。思春期になり反抗し大げんかになるも結局、父親の関係は変わらず。それどころか家に置いてあった進路調査票を勝手に提出される、という親としてどうなんだというよりどう提出したんだ、という事件が起きて。流稀はかねてより計画していた家出計画を実行する。
「してあげたいなって、そう思ったんだよ」
しかし、まだまだ子供。その計画は割と穴だらけで、第一段階である何処かに宿を取るという部分で躓いてしまい。雨の中を路頭に迷う中、彼を拾ったのはクラスの優等生でもある青緒(表紙左)。彼女の家に拾われ知るのは、彼女達の家族の形である「家族契約」であった。
従姉であり学校教師でもあるゆかり(表紙中央)は、青緒とその妹である絆菜を引き取り、「姉」となって。公的には何の効力もない、かもしれぬ家族の形を結んで。だけどそんな形に憧れて。流稀もまたお願いして、家族契約をむすぶ事になる。
「あ、あたしは『妹』なんだぞぉ?」
「さぁ、『弟』よ! うちに忠誠を誓いな!」
が、しかし。公的に効力のない言わば身内内の契約だからか、関係性は結構自由気ままで。青緒が「妹」、ゆかりが「双子」、絆菜が「姉」、という年齢なんて関係ないと言わんばかりのあべこべなものになって。青緒に甘えられたりしながらも、彼女達の家で賑やかな日々を過ごしていく。
だけど彼女達「家族」には確かに絆があった。血のつながりがない、それがどうしたと言わんばかりに。血の繋がりなんて関係ないと言わんばかりに、本物の絆があった。その絆は流稀が持っていなかったもの。だけど今、手に入れ始めた、本物の絆というものを。
「俺は絶対にいなくならないって、約束するから」
だからこそ、その絆を無くしたくない。その中にいたい、と。再びの父親との激突、結局まだ親の庇護から抜け出せぬ自分を自覚しながらも。敢えて自分から親の望むレールの上に乗ってでも、と。流稀は新たな道を選ぶ。家族を失う事に怯える青緒の為にも。
家族から始まるハートフル、その中に隠れている恋の甘さ。かの地味かわとは一味違う、だけど似ている優しい温かさのあるこの作品。笑顔になれるラブコメを読んでみたい読者様は是非。
きっと貴方も満足できるはずである。
Amazon.co.jp: クラスの優等生を『妹』にする約束をした。どうやらいっぱい甘えたいらしい。 (ファンタジア文庫) : 氷高 悠, たん旦: 本