読書感想:高校時代に傲慢だった女王様との同棲生活は意外と居心地が悪くない

 

 

 さて、男子三日会わざれば云々言うがそれはさておき。画面の前の読者の皆様は、例えば中学生時代、高校生時代、大学生時代、といったように今の立場から一つ前の立場に知り合った友人達と今でも連絡を取られているだろうか、今でも繋がっているだろうか。今の、やり取りが簡単になった時代においても、一度途切れてしまえばそのまま、という事は多々あって。いつかふとした時の再会に、驚きの展開が起きたりするのである。

 

 

 

それは友人でなくとも、例えばただ同じクラスと言うだけだった級友と言った場合、もっと驚きの展開となる事も多い。この作品もまた、そんな作品なのである。

 

「ん、久しぶりじゃん」

 

田舎の高校に通っていて、進学のために上京していい大学へ入学し。コンビニバイトとして働き始め、それなりに充実したキャンパスライフを始めた青年、山本。とある日の深夜、バイト中の彼の前に現れたのは、級友でありクラスでは「女王様」、と呼ばれていた少女、恵(表紙)。高校時代とは違い、スウェット姿の彼女。高校時代は苦手な相手、卒業後は上京したと言う風の噂を聞いた以外は繋がりの無かった相手。他愛のない世間話をする中、ふと見てしまったのは、彼女の手首に痛々しいあざがある、という事。

 

「貸しを作った覚えはない。当たり前のことをしただけだ」

 

聞いてみれば判明したのは、驚きの事情。何と彼女は、彼氏と同棲するというのを親に反対され勘当され、大学も退学し。そして同棲している彼氏のDVに傷つけられている、というもの。一先ず彼女を家に泊めて匿う事にし、どこか自嘲的に笑う彼女に、達観したからこその考えで諭して。元最悪の関係同士の、よく分からず名前もない関係の同居生活が始まるのである。

 

そんな生活の中、何かを求めるでも、恵の考えを頭ごなしに否定するのでも、自分の考えを押し付けるのでもなく。きちんと真摯に向き合って、判断材料だけは示して最後の大切な判断は自分でさせる。山本の、彼氏とは違うそういった接し方に、恵の心には驚きと共に安らぎを得て行って。少しずつ、自分に出来る事を探していこうとする。

 

だけどこの関係は、恋の元に成り立っている訳でもない。だから、彼から女の匂いを感じた時に、思いをぶつけて家を飛び出してしまって。運悪く、DV彼氏に見つかって家に連れ戻されそうになってしまって。

 

「もう一回、彼女に言ってみろよ」

 

そんな危機的状況に駆け付けてくれたのは、やっぱり山本。彼が突き付ける矛盾、守ってくれる背中に感じる胸の高鳴り。そして知る、彼氏の不貞と乗り越える為の決断。

 

「あんたのおかげであたし、救われたよ」

 

 

確かに救われた、だからここからまた一歩。そしてこれからももう少しこの関係は続くのだ。

 

DVという題材があるから重めなものはあれど、そんな中に仄かな甘さがあるこの作品。ちょっと灰色なラブコメを読んでみたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

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