読書感想:甘えたい幼馴染は「なんでも言うコト聞く券」を持って、キスをしたいと迫ってくる

 

 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。皆様は幼少のみぎりに、「肩たたき券」のようなものを誰かに贈られた事はあるであろうか。子供心にすれば大きな贈り物であるかもしれないし、いずれ時が経つにつれてどこにいったか分からなくなるものかもしれない。

 

 

だが、もしも過去の自分がとんでもなく大きな贈り物をしてしまっていたら。それが未来でも有効活用できるものだとしたらどうなるか。この作品はつまり、そういう作品なのである。

 

「この券を使うので、私と結婚してください。涼太くん」

 

ゴールデンウィーク初日、気の置けぬ十数年来の幼なじみである沙由の友人への怨嗟に満ちた愚痴を聞く、陰キャな少年、涼太。思わせぶりな態度を見せられながらも、その真意に気付くことは無く。だが沙由が切り札とばかりに繰り出した、かつて幼稚園児の頃にあげた十枚つづりの「なんでも言うコト聞く券」を見せつけられ。ようやっと彼女の思いを悟り、自爆まがいに自らの思いも暴露して。結婚、はまだ出来ずとも結婚を前提としてお付き合いする事となる。

 

 そんな幼いころに渡した、子供の無邪気の産物を見せられ結局拒めぬのは、惚れた弱みだろうか。あれよあれよと言う間に、券を肝心なところで使われて、気が付けば一時的な一人暮らしである沙由と同棲する事となり。一つ屋根の下、二人きりの時間が始まるのである。

 

朝起こしに来てくれたり、ご飯の材料を買いに二人で出かけたり。時には相合傘をしたりして、一緒に自撮りなんかもしてみたり。急速に、今までの時間を取り戻すかのようにいちゃいちゃの嵐が巻き起こる中。同棲にあたってのルールを決め、何だかんだと息が合うからこそお互いの思いが分かる、だからこそ日々、その甘さは増していく。

 

どんどんと攻める、けれどもその反応はどこか初々しく、年頃の乙女らしく。そんな日々に、留学から帰ってきた涼太の妹、美咲や級友であり勉強仲間である梨央奈が絡んでくることで、沙由が嫉妬したりして。日常は何処か、コメディの色を強くしていく。

 

「こんなに可愛い彼女がいるのに、他の女の子に興味なんて湧かないから」

 

そんな日々の中、夢と選択肢と言う未来の話に、きちんと未来を見ている涼太と、涼太の事だけを見ているからこそ見ていない沙由との間ですれ違いが生じたりして。けれどそれでも、きちんと思いを伝え合い、また一つ恋人同士となるのである。

 

物凄く真っ直ぐにラブコメして初々しい事やってるからこそ、心を突き刺してくる面白さのあるこの作品。王道なラブコメが好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

甘えたい幼馴染は「なんでも言うコト聞く券」を持って、キスをしたいと迫ってくる (ファンタジア文庫) | 朝陽 千早, シソ |本 | 通販 | Amazon