読書感想:デモンズ・クレスト1 現実∽浸食

 

 さて、恐らく画面の前の読者の皆様は「ソードアートオンライン」シリーズの事はご存じであろうが、つい先日、作中の時間が現実の時間に追いついた、というニュースがオタク界隈に流れたのはご存じであろうか。流石にまだ、かの作品の世界レベルにまで現実は追いついていない訳であるが。いつか追いつけるときは来るのであろうか。

 

 

という話はさておき。「これはゲームであっても、遊びではない」という物語の黒幕の言葉を画面の前の読者の皆様もご存じであろう。それはこの作品においてもある意味同じである。そして、この作品は前述の作品とは決定的に違う所がある。

 

 それはゲームであって現実であるという事。現実とゲームの世界が交じり合う。故にこの作品は手に汗握り冷汗が噴き出るサバイバルホラーの要素まで持っているのである。

 

世界初の全感覚没入型VRMMOーRPG、「アクチュアル・マジック」。通称「AM」。そのテストプレイに、のぞみ市立雪花小学校のとあるクラスの生徒達が招かれ。その一員である佑馬(表紙左)は大規模アミューズメント施設「アルテラ」の接続ルームから「カリキュラス」と呼ばれる機器を使いゲームの世界に飛び込み。全く未知の感覚に驚き、級友達と攻略スピードを競い。満足のままに、世界に別れを告げた、筈だった。

 

「お兄ちゃん、ここは現実だよ! もし死んだら、本当に死ぬから!」

 

 だが、そうは問屋が卸さなかった。何故かないログアウトボタン、突如巻き起こった謎の赤い光に包まれ現実世界に帰った佑馬が見たもの。それは何処か人間離れした容姿に変化した双子の妹、佐羽(表紙右)、そしてバケモノのような姿に変化し、級友の一部分を握って血塗れで立っていた級友、すみかの姿だったのだ。

 

訳も分からぬままに佐羽に促され操作をした途端、ゲームの力が彼の身体に宿り。「魔物使い」としての力ですみかを止める事に成功し。

 

だが一難去ってまた一難、どころでもなかった。仲良しグループの一員であり幼馴染、水凪は何故か密室であったはずの「カリキュラス」の中から、痕跡も残さず失踪し。彼女を探すために動き出した佑馬たちが見たのは、謎の闇に覆われた「アルテラ」の姿と、その内部を闊歩するゲームの中のバケモノのような奴等であった。

 

一先ずどうすべきか、を考え佐羽の正体を隠しながら級友達と合流し彼等にも力を授け。だがクラスのリーダー的な立場である少年、光輝が彼が指揮を執ることに反発し。学級裁判で訳も分からぬままに有罪とされ、罰として食料を探しに出たら、絶対に勝てないと思わせられる魔物に遭遇してしまう。

 

「―――来て、ヴァラク!!」

 

 絶体絶命の危機、それは不意に打開される。それを為したのは佐羽の力。文字通り「悪魔」のように変貌した、彼女の強大な力。

 

果たして、佐羽は何を知るのか? そもそも世界はどうなっているのか? そして水凪は何処へ行ってしまったのか?

 

幾多の謎が一気に散らばる中、私は一つ言いたいことがある。以前私は子供に何てもの背負わせるんだと発言した。だがそれは違った。寧ろこれは、彼等小学生でなければ背負えなかったのだ。

 

未だ擦れを知らず、真っ直ぐに受け止め許容できる年代の彼等だからこそ。ある意味純粋に混乱の先に事態を許容できる、それに基づき行動できる。

 

だからこそこの作品は面白い。正に心震え慄くような面白さがあるのである。

 

大きな物語の始まりを見届けたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

デモンズ・クレスト1 現実∽侵食 (電撃文庫) | 川原 礫, 堀口 悠紀子 |本 | 通販 | Amazon