読書感想:これが「恋」だと言うのなら、誰か「好き」の定義を教えてくれ。1

 

 さて、時に思うのであるがこの作品のタイトル通り、好き、という感情の定義は何処で行われるものなのであろうか。特に、好きと言う感情を理解するのはどこで理解するものなのであろうか。まっすぐに考えるなら頭、脳であるのかもしれない。もう少し捻らずに考えるなら、心、というどこにあるのかも分からないものであるのかもしれない。その答えはそう簡単には出ないかもしれない。まぁ分からない、それでもそこに好きと言う感情があるならラブコメは始まるのである。

 

 

日本屈指の学生街、高田馬場。かの街で一人暮らしをする拗らせぼっちな青年、悠。十年に一度の大雪が高田馬場を覆う中、電車も逃して帰れなくて凍えそうになっている一人の女子に声を掛けられる。

 

「いや、普通に帰ろうとしていたが」

 

彼女は同じ授業を受ける後輩、光莉(表紙)。しかし名前も覚えておらず、何やら地雷臭を感じたのでそのまま帰ろうとしたら、ぐいぐいと来られて。結局彼女を家に泊めることになって。その後、彼女がお礼の為にケーキを持って来て、更にはご飯まで作ってくれることになって。

 

「―――あとぶっちゃけ、うちって寒いんですよね。だから、あんまり帰りたくないんです」

 

そんな中、彼女の闇に染まった瞳から垣間見るのは、彼女の抱えた家庭環境。そこに感じるのは、自分と同じ、という感覚。似ていないように見えて、実は似ていた。だからだろうか。何だかんだと、とんとんとやり取りしつつも、光莉の中で悠へ向ける思いが変わっていったのは。

 

その変わる思いの中、垣間見えるのは自分の知らない名前。きっとこれ以上近づいたらこの心地よい関係は終わってしまう、と感じて。だから傍に居たい、とその思いに蓋をしようとして。それでも、いつの間にかその思いは抑えきれなくなって。いつか醒めると分かっていても、と。この日々を、という思いが湧いて行って。

 

だけど、まだ肝心な所には踏み込めない。だから、悠の抱えるものには触れられなくて。不愛想な言葉に傷ついて、すれ違いそうになってしまって。

 

そうなってやっと見直すのは、彼女の事をどう思っているのか、という思い。自分には恋が、好きが分からない。自分の中で、好き、というものへの定義が出来ている訳でもない。ならばなんと言えばいいのか、何を伝えればいいのか。

 

「だから、お前に傍に居て欲しいんだって」

 

自分の気持ちの定義もまだ出来ない自分だけど。それでも今、この胸の中にある思いを口にして。何も変わらぬように見えて確かに一つ、少しだけ二人の関係は進展するのである。

 

令和という世だから生まれた、こんな世界だから生まれた、ある意味リアリティのある叙述が冴える、いい意味で等身大なラブコメと言えるかもしれないこの作品。もどかしくてこそばゆくて、ちょっと切ない、だけどほんのり温かいラブコメがあるのである。

 

そんな、大学生らしいラブコメを見てみたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。