読書感想:ママ友と育てるラブコメ3

 

前巻感想はこちら↓

読書感想:ママ友と育てるラブコメ2 - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、前巻までは「家族」、というものを前面に押し出して家族としてのあり方、想いを書いてきた今作品であるが。所謂ヤングケアラーとでも言うべきな立場を受け入れそれに全力で取り組んでいる響汰と澄であるが、この作品はお忘れではないだろうか、ラブコメであると言う事を。最終三巻となる今巻では、そんな二人の関係にも光を当てて迫っていくのである。

 

 

 

「妹さんの面倒を見ることと、あなたの進路は別の話だって言っているんだよ」

 

担任から告げられた、進路調査票の書き直し。まぁ当たり前である、時間稼ぎの為に想夜歌の夢を書いていたので。そして突き付けられる、自分が抱える空洞、空っぽであるという真実。それもまた仕方のない事かもしれぬ。今まで想夜歌の事を第一に考えて来て、彼女に全部を捧げて来て。何処までいっても彼女主体にしか考えられない、だからこそある意味自分がない。

 

「私は・・・・・・響汰を失いたくないの」

 

その裏で、澄もまた己の思いに悩んでいた。響汰の親友である瑞貴に打ち明けたのは、響汰を失いたくないと言う思い。今まで失う事が怖くて、全部自分から遠ざけて。そんな中にするりと入り込んでいて、いつの間にか唯一無二となっていた彼。だけど弟妹が幼稚園を卒業したら、もし弟妹が疎遠になったら。それだけで関係は切れてしまう。もし付き合ったとしても、別れたら無くしてしまう。求めれば求めるだけ、失う恐怖に足がすくむ。今更ながら得た思いに、彼女もまた悩まされていた。

 

 

そう、ここにきて示されるのは二人の歪さ、と言ってもいい筈の部分。妹に全てを捧げてきたからこそ、自分の事を優先せず自分を持たぬ響汰。失う事を恐れ、今ある家族に依存のように尽くしてきたからこそ、愛する事が依存に繋がる澄。

 

 

ある時はケンカをした想夜歌と郁を仲裁したり。またある時は、皆で泊りがけで出かけたり。

 

ちょっとだけ離れたり、またくっついたり。そんな夏の日々の中、お互いがお互いの想いに迫る。自分の心の中の思いに向き合っていく。その先に待っている、珍しく弟妹を交えぬ二人で向かう夏祭り。そこで二人の思いが交わっていく。

 

「家族になりたい」

 

まだ恋心は芽生えきっていない、だけど失いたくないから、その形を求める。それはある意味歪な願い、けれどそれは愛が自分の中にあると信じたい響汰の心の隙間には当てはまる形。

 

「俺たちがママ友じゃなくなった時、その時にまた、話の続きをしてもいいか?」

 

 

だけどまだ、二人はともに精一杯だから。だからこれは先延ばし、なんかじゃない。きっと未来に繋がる、自分達の思いを「育てる」約束を。

 

この二人だからこその答えに辿り着く、一種の万感の感情駆け抜ける今巻。どうか最後まで画面の前の読者の皆様も楽しんでほしい。

 

Amazon.co.jp: ママ友と育てるラブコメ (3) (ガガガ文庫 ガお 10-3) : 緒二葉, いちかわはる: 本