読書感想:嘘つきリップは恋で崩れる

 

 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。皆様は女性の美しさ、というのは何処で決まると思われるであろうか。化粧やファッションにより外面を取り繕う事は出来る、しかし内面、その心が綺麗である事こそが重要であり、美しさは内面から、と言う事もあるらしい。私はその基準について語る口は持っていないので、答えはそれぞれとして。この作品はそんな、美しさという要素が密接に絡んでくるお話なのである。

 

 

「大学で話しかけたりしねえから、安心して」

 

とある事情を抱えおひとり様至上主義を掲げる青年、創平。日々特に誰とも関わることはなく、講義とバイトに励む日々。彼がある日気付いた事実、それはゼミで有名な美女、晴子(表紙)が彼の住まう築数十年のボロアパートの隣人であるという事。一先ず関わる気もないけれど、彼女の部屋にゴキブリが出ると言うアクシデントで彼女の地味そのものなすっぴんを覗いてしまい。更には彼女の方からは気づいていなかったけれど、実は高校も同じであると判明し。一先ずもう関わらない、と素っ気なく突き放して。その場で関わりは終わりとなる筈だった。

 

「わたしは、相楽くんと仲良くしたいもん」

 

しかし、彼女はぐいぐいとやってきて。おひとり様でいたい創平は、自分と居ると彼女の望む「薔薇色」な日々には程遠いぞ、と突き放そうとすれども、結局拒み切る事が出来ずに。薔薇色のキャンパスライフを目指す彼女に協力する事となり、気が付けば同じゼミの一員として。夏休みを共に過ごしたり、彼女のミスコン出場に協力したり。いつの間にか彼女が隣にいることが多くなってきて。おひとり様至上主義が、気が付けば変革を始めていく。

 

そんな中、気が付けば助けてもらえる事が多くなって。自分の素顔をどんどん知られていくけれど、素顔も含めて最初から受け入れてくれたのは彼だけで。だからこそ好きになるのは当たり前だったのかもしれない。だけど、創平は彼女の思いを一度は拒む。その心のしこりになっていた、自身の家庭環境からくるトラウマによって。

 

その彼の事を、同じように見ていた晴子。彼女が気付いていくのは、彼の本当の思い。ひとりでいい、なんて強がっているけれど。本当は寂しいと叫んでいた彼の心。

 

「本当は、寂しかったの?」

 

 

自分を助けてくれたように、今度は自分が彼を助け支える番だと。彼女に支えられ、家族と向き合って。確かに愛してくれていたという実感を得て。やっと彼も一歩踏み出していく事が出来た。

 

「大丈夫だよ。俺の前では、そのままの七瀬でいい」

 

やっと出せた素の自分、当たり前の何処にでもいる、普通の自分。それは晴子も同じ。だからお互い、素の自分でいられる二人は。まるで運命の様に、だけど必然的に。結ばれるのである。

 

そんな当たり前の恋物語の尊さが心に突き刺さるこの作品。尊いブコメを読んでみたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

Amazon.co.jp: 嘘つきリップは恋で崩れる (GA文庫) : 織島かのこ, ただのゆきこ: 本