読書感想:ツンな女神さまと、誰にも言えない秘密の関係。

 

 さて、アニメにおける生徒会とは嘘である。というのは言い過ぎかもしれないが実際の所、生徒会の権限と言うのは実際にはそんなにない、というのは画面の前の読者の皆様も多分ご存じであろう。例えば生徒会の一存やら生徒会役員共、のように色々出来る訳ではない。そう考えるとアニメの生徒会というのは割かし誇張されている存在であるのかもしれない。

 

 

とまぁそんな前書きから察していただけたかもしれないがこの作品は、生徒会という所から始まるのであり。昨今珍しめの一歩ずつ、気長に進んでいくラブコメなのである。

 

 

基本的には面倒くさがり、しかし根はやさしくて面倒見の良い少年、葉月。黒波高校という男子校の生徒会長を務める彼。しかし黒波高校は生徒数の減少という事情で白峰女子校という高校に統合される事になり。状況が整うまで、白峰女子校の生徒会長、氷花(表紙)とダブル生徒会長を務める事となる。

 

「思っているけど、何か?」

 

「お前の顔は本気と冗談の区別がつかないんだよ」

 

事前の噂、とは程遠く。まるで氷の様にお堅く融通の利かない彼女。最初の打ち合わせで一先ず軟着陸をした放課後、衝撃の事実は判明する。それは春から一人暮らしを始めた葉月のお隣さんが偶々氷花であり、しかも彼女は生活能力が壊滅している事まで露呈し。

 

「お隣同士だからな。助け合うのは当たり前だ」

 

お隣さんとして放っておくことは出来ず。しかし自分がずっと手助けできるわけでもないから、一先ず一緒に覚えていこうと提案し。料理を作り、教える事と引き換えに勉強を見てもらう事にし。周りの者達には言えない、それどころか知られてもいけない、というより想像もできない関係性は始まる。

 

レベルの上がった勉強に唸らされたり。コンロの付け方すら知らぬ氷花に驚かされたり。統合された先で再会した幼馴染、陽子に関係を疑われたりしつつ。同じ時間を過ごす中、少しずつお互いに心を許し合い、気安い関係に近づいて行って。そんな何気ない日々の中、義母からの電話に彼女の顔が曇り。更には彼女の両親が家にアポなし訪問してきた事で、彼女の抱えている事情、実母とは死別し、義母とは折り合いが悪くて一人暮らししていると言う事情を知る。

 

「それより、俺はお前を褒めたいね」

 

葉月もまた、似た者同士。だからこそ分かる、逃げると言うその選択肢がどれだけ褒められたものかという事が。心を揺らす彼女の事を肯定してあげて、週末に延期された訪問に向けて料理を覚えようと準備し。 迎えた週末、氷花の不用意な一言から彼女の父親に知らずの内に誤解されたり、父親の本心の一端を聞かされたりしながら。思い出の料理を再現して父親の涙を誘い、一先ず一人暮らしを継続する事には成功する。

 

「信用はしてないわ。でも、信頼はしているわよ」

 

その先にぽろりと零れた彼女の思い。そこにふと感じる、僅かな兆し。名前のない関係は未だ、続くのだ。

 

ゆっくり穏やかに、少しずつ距離を詰めていく仄かなラブコメのあるこの作品。穏やかなラブコメを読みたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

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