さて、時に画面の前の読者の皆様は和菓子はお好きであろうか。私は特に栗きんとんに目がなく、しかし栗きんとんには拘りがあるくらいには好きなのだが。それはともかく。和菓子、というのは洋菓子にはない美味しさがあるのも確かであり、和菓子の方が好き、という方もおられるかもしれない。
この作品は、そんな和菓子屋が実家な主人公、奏太が「孤高の令嬢」と呼ばれる少女、綾音(表紙)をひょんな事から助け。絆を結んでいくお話なのである。
人前で笑う事もなく、それどころかひとりが心地よいから、と男子も女子も寄せ付けず。ついたあだ名が「孤高の令嬢」。 そんな彼女をある日、学校からの帰り道で偶々見かけ。偶然にも彼女めがけて高所から金属製の看板が落ちてきて、という下手しなくても命の危機から助けたら。 父親の「人に借りを作らない」、という方針に倣い綾音が家の全財産を譲渡しようとしてきて。 それははっきりと断るも、借りは返したい、という彼女にぐいぐいと詰め寄られて。
「だったら、うちの仕事を手伝ってくれないか?」
「借りを返すためならなんでもします。ぜひ手伝わせてください」
どうしたものか、と思い悩んで。一先ず奏太の実家である和菓子屋を手伝ってもらう、という事を提案して。寂れた裏通りにある和菓子屋に案内して、早速お手伝いが始まる。
しかし、笑顔が出せない綾音に接客は向いているのか。やはり最初は大失敗、お客として来た子供を怖がらせてしまい。笑えるように、とお笑いのビデオを見てみたり、奏太の家で飼われている小型犬と触れ合ってみたり。
『はい。こんなに楽しいのは生まれてはじめてです』
そんな日々が、綾音にとって特別なものになっていく。奏太と過ごす時間が少しずつ特別になっていくにつれて、彼も知っていく、彼女の事情を。 笑顔が苦手なだけで感情豊かで、今まで借りを作らぬように生きてきたからこそ、誰かに甘えると言う事に飢えていると言う事を。
「だって男子は男子でも、奏太くんは特別な男子ですから・・・・・・」
甘えられる相手を得、少しずつ彼といる時間が楽しくなってきて。和菓子屋を繁盛させるにはどうすればいいのか、という命題に対して、他店の偵察に行くために一緒に出掛けたり、級友たちにお勧めしてみたり。 二人で色々と模索していく中、綾音の中で奏太の存在は少しずつ特別、になっていって。
「貸し借りがあろうとなかろうと、これからも仲良くしたいと思ってるよ」
それはまた、奏太の中でも同じ。だからこそ、彼は提案する。貸し借りを超えた、気にせぬ関係で繋がっていくための選択肢を。
劇的なイベントが起きる、という訳じゃないけれど。何気ない日々が優しくほのかに甘いこの作品。何気ない甘さを楽しんでみたい読者様は是非。
きっと貴方も満足できるはずである。