読書感想:好きな子の親友に密かに迫られている

 

 

 さて、最近少しずつ根付きつつある背徳系の作品、というのは背徳というのは一体どういうことなのか、という事を今一度振り返ってみると。主人公から見て好き、もしくは恋人同士であるヒロインがいて、その関係に迫ってくるもう一人のヒロインが居たりする訳であるが。そのもう一人のヒロイン、という関係性に付随する関係性は妹であったり、友人であったり、という事が多いのかもしれない。

 

 

それもまた、自然であるかもしれない。あまり遠すぎると、関係性に割り込む事が出来ぬという事を考えると、ある程度近い関係性が必要になるから、そうであろう。

 

「私たち、仲良くなれそうね」

 

強く気高く、笑うと可愛い初恋の人。美彩(表紙右)に中学時代に惚れこんで、何気ない時間を友人同士として過ごし、同じ高校に進んだ途端に告白した主人公、蓮兎。いきなりの告白を見咎め、注意するために近づいてきた他校出身の少女、晴(表紙左)。何だかんだと三人仲良くなって。妙な始まりから三人グループは形成されて。遠足からゴールデンウィーク、更には夏へ。少しずつ進んでいく季節の中を、三人で楽しんでいく。

 

「あたしも気づいたよ。瀬古のいいところ」

 

―――けれど。今は、その後の言葉が欲しい。

 

 だがしかし、何気ない生温さに満ちた日々の中。晴の中、美彩の中。それぞれ蓮兎に向ける思いが、生まれて。お互い相手が自分以外の彼女といるのが嫌になって。胸の内、もっと、もっと、とそれ以上を。求める気持ちが一度生まれてしまえば簡単には死なない。それどころか、いつの間にか。一気に大きくなっていくのだ。

 

 

自分以外を見ないで欲しい、彼女ではなく私だけを見てほしい。自分に欲しい言葉をくれたのは、自分を助けてくれたのは彼だから。だからこそ彼の全部が、こんなにも欲しい。独占したいと、求めてしまう。

 

理論ではなく、直感的に。いつの間にか行動原理の根っこに根付いていた彼への思い。いつもかけてくれる言葉、それがないと寂しくなって。彼女ではなく、私だけを見て、私だけに言って、と。そんな気持ちがどんどんと芽生えていく。

 

「していいんだよ」

 

そう、歪むのは寧ろ必定であったのかもしれない。きっとそれが遅いか早いか、の違いだけだったのかもしれない。そして晴からの不器用なアプローチに、いつもとは違う艶美な彼女の誘いに。逃れられぬ激情の沼への入り口が、静かに、だが確かに開いていくのである。

 

甘いと言うよりは酸っぱい、どこか心かき乱される鮮烈な感情が迸るこの作品。感情が乱されるラブコメが好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。