読書感想:血の繋がらない私たちが家族になるたった一つの方法

 

 さて、同居、はたまた同棲、もしくは居候。今あげた三つのキーワードに共通する言葉は、一つ屋根の下、という単語であるが。ラブコメにおいて同居と言うのは、ラッキースケベ的イベントへの導入であり、互いの生活リズムの違い等、様々なすれ違いのお話も生めるのだが。そのような関係に落ち着くには、ある程度の関係が予め必要である、というのをラブコメを嗜まれる読者様であればご存じであろう。

 

 

まぁラブコメにおいては、親の再婚等で急に義妹、もしくは姉が出来ると言うのが基本であるが。 ではこの作品はどうなのであろうか?

 

「久しぶり、兄さん」

 

今年から高校生となる少年、翔太(表紙中央)。彼は高校入学を前に、一つの再会を果たしていた。七年振りとなるその相手とは、妹である英梨花(表紙右)。一度別れた両親が復縁したことにより、また家族として暮らすことになったのである。

 

「私、兄さんの本当の妹じゃないよ」

 

懐かしさを感じつつ、同年代に成長した妹との距離感を図り切れずに思い悩む中、彼女から告げられたのは自分が実妹ではなく義妹である、という事。 それでもこれからよろしく、という彼女の言葉に心に小さな波紋が沸き上がる。

 

「うん、ありがと。で、これからもよろしくね」

 

が、しかし。更に彼の心に波紋を湧きたたせる出来事が巻き起こる。小学校に上がる前からの腐れ縁的幼馴染、美桜(表紙左)。母子家庭で育ち、母親の再婚により微妙な関係となった彼女もまた、一緒に暮らす事となって。小さなラッキースケベが起きたりしつつも、恙なく高校入学の時を迎える。

 

「てわけで改めてよろしくね、しょーちゃん」

 

さて、高校入学し何が起きるかと言う事であるが。英梨花と美桜、美少女二人が周りから注目されぬ訳もなく。早速美桜に告白が来て、今はそんな事を考えられぬ美桜は断った後で翔太に偽装カップルのお願いを持ち掛け。翔太もまたそれを受け入れ、二人は偽装カップルとなるのであった。

 

「これからどんな顔すりゃいいんだよ・・・・・・」

 

高校デビューした彼女は、ただ見た目が変わっただけ。だから何も変わることはない、これまで通り、家族の様に。だけど、その思いは。親睦会で美桜を助け、彼女が家族としての挨拶と言うキスをしたことで。思いっきりゆらされ、彼の心の中の波紋は無視できぬ程に大きくなり。距離感を測りかねている英梨花も、何か思う所があるのか動き出していく。

 

 

今は未だ、始まったばかり。ギャルゲでいう所の、共通ルート第一章。その中で醸成され振り回されていく、繊細な心の動き。作者様の得意とされる描写がこれでもかと盛り込まれたこの作品。ゆっくりと進む繊細なラブコメが好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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