読書感想:完璧な佐古さんは僕みたいになりたい

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 さて、このラノベ界には所謂「高嶺の花」な存在がヒロインであるラブコメが割と様々な種類存在する、というのは画面の前の読者の皆様も何となくお察しではないだろうか。では、そんな「高嶺の花」なヒロインと付き合う為には主人公は何をしているのだろうか。皆様が思い浮かべられる主人公は、自分を変える為に精一杯、努力している主人公像が多いのではないだろうか。

 

 

それもまた当然であるのかもしれない。そういう、主人公の成長と言うのが「高嶺の花」なヒロインの登場するラブコメの一つの面白さともいえるので。

 

 ではここで、逆に考えてみよう。もし、ヒロイン側が主人公に合わせようとしてきたら? ヒロイン側が高嶺の花を降りようと、往々にして身に着けている完璧さを崩しだしたのなら? それこそは滅多に見かけぬ、唯一無二と言えるのではないだろうか? この作品はつまり、そういう作品なのである。

 

進学校に猛勉強の末に入学し、しかし周りの優秀さに心おられ、担任教師の勧めで教師の人助けという奉仕活動に精を出し一年、そんな人助けが趣味ともいえる以外は普通な少年、晴。

 

「僕は大した人間じゃないよ」

 

 そんな彼はある日、才色兼備で全校生徒の憧れの的な級友、町香(表紙)から告白され自分の方が釣り合わぬと断ってしまう。しかし、普通ならばここで止まる筈が町香は止まらなかった。それどころか、誰もが予想外の方向への努力を始めたのである。

 

長くて美しかった髪をばっさり切ったかと思えば、何故かスカートを短くしたり。それどころか何故か激マズな弁当を作ってきたかと思えば、どう考えてもわざととしか思えぬ忘れ物をしてきたり。

 

それは自分は「完璧」なんかではないと分かってもらいたいと言う思いが故。そんなどこかぽんこつな空回りを続ける彼女に振り回され、しかし晴もまた町香から目を離せなくなっていく。どうして自分にこうも迫ってくるのか、と気になっていく。

 

少しずつ変わっていく彼の思い。憎からず思っているからこそ、彼女に並びたいし越えたい。その自信をつける為にテストの点数で彼女を越える事を目論み。一緒の勉強会、メッセージアプリ越しの勉強会を通じ、彼は彼女の思いに触れていく。

 

 お互いを見ているようで、双方向に見ている訳じゃない。けれど、言葉にならぬ切なさごと、君に届けと言わんばかりに。少しずつ、確かに一歩ずつ。町香の思いに迫る中、晴は彼女の本当の願いに迫っていく。

 

「―――佐古さんにもできるよ。佐古さんだって、自分を変えられる」

 

それは、彼女が斜め下の努力とアプローチを繰り返していた真意。避けられぬ別離、しかし彼女の本心は違う。それに気付けたのは自分だけ。彼女に足りぬものを持っていた自分だけ。

 

そう、晴に足りぬものを町香は持っていて。町香に足りぬものを晴は持っていた。だからこそ、まるで半身同士が互いに呼び合うかのように。惹かれ合って恋をした。

 

だからこそ、今、変わりたい。変わって見せる、本当の意味で。晴に背を押され、町香は必死に本心の我儘を告げるのだ。どこまでも彼と共に生きたいと言うかのように。

 

 臆病で、未熟で。けれどそんな壁を二人で越えていく、真っ直ぐに甘くて根っこは王道。この作品、正にレベルが高い。故に既にこの巻だけで、至上な甘さを持っているのである。

 

故に、この作品。全てのラブコメ好きな読者の皆様にお勧めしたい。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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