読書感想:組織の宿敵と結婚したらめちゃ甘い

 

 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様は、大人気漫画、ワンピースにおける空島編にて登場したひし形のおっさん、ことノーランド氏の事を覚えておられるだろうか。かの氏は、伝説の空島を探し求め、その夢は麦わらの一味が叶え。その叶えた時点で夢は終わったけれど、次はどんな夢を追いかけようか、と前を向いていた。そんなあの人、という訳ではないが。 最初の目標を達成した後、どれだけ次の目標に向かう事が出来る人がおられるであろうか。

 

 

そんな前置きはさておき。この作品における現代世界の裏側、世の闇では二つの組織が相争っていた。異能力者の組織、通称「組織」と只人の組織、「志々馬機関」。「濡羽の聖女」と呼ばれる人知を超えた、人の願いを叶える存在。その聖女の力の残滓、「落とし羽」を巡り、相争う二つの組織。その「組織」のエース「白魔」と異名を持つ律花(表紙)と「志々馬機関」のエース、「羽根狩り」の異名を持つ狼士。二人は互いに、互いへの抑止力。何方かが出れば、何方かが出てくる。故に何度も戦場で相まみえる。

 

「ろうくん、大好きっ」

 

「俺もだよ、律花」

 

 お互い殺意を向け合う、大嫌い同士だった二人。しかし、最終決戦の中で聖女の本質を知り、二人の選択により聖女が排除されて十年ほどの後。二人はなんやかんやあって結婚し。玩具会社社員で社畜の狼士と、その妻の律花として。平和な日々を過ごしていたのである。

 

「だよねぇ。みんな心配しすぎだよ~」

 

平和な日々、そこには武器も、異能力もいらぬ。だからこそ、お互いに今日も一日平穏であったか、と確認し合って。 普通を装いながら、当たり前の夫婦として日々を送っていたのである。

 

日用品を買いにいく為だけでも、夫婦のデートとなり。犬を飼うか猫を飼うかで、可愛らしく喧嘩をしてみたり。かつての上官、今は上司に狼士が駄目だしされたり、今はクレイアニメーション作家である律花の実兄、虎地に絡まれたり。ドタバタしながら、何だかんだと。ラブラブだけど、まだ初体験は未だ、というじれったい状態で。結婚記念日に向けて準備をしていく中。不穏な気配の主、狼士のかつての仲間が律花を狙い魔の手を伸ばす。

 

そこにあったのは何か。それは燻る気持ち、変えられぬ思い、狂暴な熱。平和な世界には不釣り合い、だけどそれを捨てられなくて。 持ち続けていたからこそ、狼士を狙う。自分も、同類なんだろうと突き付けてくる。

 

「でも、それをしたいと思える時点で・・・・・・もう愛なんだよ」

 

だけど、狼士はもう違う。今は大切にすべきもの、最も大切なものが隣にあるから。藍を知り、変わったからこそ。変わったからこそ得た力を突き付けて。戦いの象徴をぶち壊して、日常に戻っていくのである。

 

戦いの後のちょっと切ない空気と、夫婦の甘々が見所であるこの作品。 甘々が好きな方は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

Amazon.co.jp: 組織の宿敵と結婚したらめちゃ甘い (電撃文庫) : 有象利路, 林けゐ: 本