読書感想:死神と聖女 ~最強の魔術師は生贄の聖女の騎士となる~

 

 さて、全寮制女学園という舞台を紐解いてみると、古来的にはどんな作品があげられるのだろうか。女学園、と言う舞台はまぁまぁな数があれど、全寮制、までいくと中々無いかもしれぬ。では画面の前の読者の皆様は、女学園と言う言葉を聞いてどんなイメージを連想されるであろうか。秘密の花園、女の花園。それこそ何らかの百合な作品の舞台、というイメージをされる方が多いかもしれない。

 

 

 

ではこの作品は、全寮制女学園という舞台、故に百合なのか、と言われると、百合ではあるが中々ヘビーな百合であると言える。それは一体どういうことなのか。ここからそれを書いていきたい。

 

戦車が歩兵を蹂躙し、戦闘機が空を支配する血と硝煙の時代。目覚ましい科学技術の発展の裏、そこには魔術があった。守護天使を身に宿し、人知を超えた秘蹟を行使する「秘蹟者」と魔術を修め、超常なる事象を展開する「魔術師」。破格の力を有する二つの勢力は欧州、秘蹟者と聖女を従えるウァティカヌス教国と軍事国家であり魔術師の精鋭部隊を擁するグロースライヒ帝国を中心に、長年世の裏で争いを重ね泥沼へと陥っていた。

 

「その任務、私が引き受ける」

 

その帝国に一人の工作員がいた。彼女の名はメアリ(表紙上)。「死神」との異名で恐れられる彼女は、上官であるベイバロンから新たな任務を命令される。それは教国に十人する「聖女」が隔離されている絶海の孤島にある学園に潜入し、隊商の聖女を殺せと言うもの。その聖女の力、死者の蘇生に何か思う所がある彼女は任務を受け。早速正面から潜入する事となる。

 

「私、あなたと友達になりたいの」

 

一先ず聖女の集まる生徒会とも面通しを済ませ、現地の協力者である工作員、ココとも合流し。まず聖女に近づく為、友達になる事とし。周囲から人を遠ざけ、護衛の騎士であるエリザベスしか傍に置かぬ聖女、ステラ(表紙中央)に近づくために、真っ直ぐにいって。 ステラにちょっと警戒されるも、エリザベスに見込まれ。一先ず接近する事には成功する。

 

「ステラは殺せない。殺したく、ない」

 

しかし不器用な交流の中、秘蹟者らしき襲撃者にステラが襲われると言う事態が発生し。 護衛のお手伝いと言う形で傍に居ることに成功し、どんどんと好機は彼女の前に晒される。だが、殺せない。今までは殺せていた。だけど、何故か殺せない。殺したくないと言う初めての思いが、その手を引き留める。

 

殺せぬ中、姿を見せステラを攫うのは黒幕、その裏にいた真の黒幕。傷つき瀕死に陥るメアリを救うため、奇跡を行使するステラ。記録の中、目撃するのはメアリの過去。その中、メアリの心に触れ赦し。蘇ったメアリは、自身に向き合い得た力、神の奇跡を解き放つ。

 

「だってこれはあたしが決めることで、自分自身が向き合うべきものだから」

 

多分この作品は、「貫き通す」という事を描いた作品なのだろう。優しくない厳しい世界で、運命に翻弄されながら。それでも惹かれ合い、己の意思を貫き通す。そんな彼女達のお話なのだ。

 

骨太に過ぎるバトルの中に鮮烈な百合が光るこの作品。歯ごたえのある作品を読んでみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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