読書感想:黒聖女様に溺愛されるようになった俺も彼女を溺愛している1

 

 さて、突然ではあるがこの世の中には「綺麗なバラには棘がある」という言葉がある。綺麗な花であっても、何を隠しているのかは分からない。それは人間もまた、同じであろう。表ではいい顔をしている人間が、裏ではどんなことを考えているのか、というのは簡単にわかるわけではない。だからこそその見極めも、時に大事となってくるのである。

 

 

目立つことを極力嫌い、ひっそりと生きていきたい少年、深月。クラスで唯一の友人である明と、その彼女である日和くらいしか関係を持たず。人間関係は省エネで過ごしていた彼はある日、「聖女様」との異名で呼ばれる、学校一の美少女、亜弥(表紙)が高熱による意識混濁で階段から足を踏み外して落ちてきたのを、期せずして救い、受け止めた時に手首を痛めるも、何とか受け止め、そのまま保健室まで送り届けた後に別れ、関係は終わった筈であった。

 

「関わりたいとは思いません。ですが、このまま帰ることは絶対出来ません」

 

 だが、終わらなかった。一人暮らしを営む部屋のお隣さんである亜弥を避けきる事は出来ず、ひょんな事から自分が怪我している事と、自身の生活能力の無さを露呈してしまい。返すべきものを返すと言う名目の元、亜弥に生活をサポートされる事になる。

 

まずはけがの手当てから始まり、料理を作って貰ったり、二人で汚部屋の大掃除に励むことになったり。クラスでも壁を作る彼女に友人を作る為、日和や明と結び付けようとそれとなく仕掛けたり。

 

「まーじで可愛げがない」

 

 時に非難の雨に晒される彼女を助けようと、わざと汚名を被ってみたり。そんな何気ない日々が続く中、深月は亜弥が誰にも見せぬ素顔に迫っていく。聖女様の仮面の裏、そこに隠れていたのはまるで毒の花。感情豊かで世間知らず、毒舌で腹黒いという見る人が見たら卒倒しそうな姿。

 

だが、それは深月も似たようなもの。自身も一人を好むからこそ、どこか周りに壁を作っている。まるで鏡写しのように似た者同士。お互いに無理に歩み寄る訳じゃない、何気なく近づき驚いたように離れ。曲者で面倒な心を持つ二人だからこそ、その触れ合いはひどくもどかしいもの。

 

「無理して笑われたところで可愛くなんかないんだよ」

 

 だが、そんな日々がいつの間にか特別になっていく。なっていくからこそ、彼女が傷ついて空元気だったら気になってしまう。訳も分からぬけれどそれでも確かに嫌だから。未だ向ける感情は分からずとも、大きな存在となっているのは確かだから。だからこそ柄にもなく奔走してしまうのだ。

 

面倒くさい二人がもどかしくも距離を詰めるこの作品。今巻だけ見れば、タイトル詐欺であるかもしれぬ。だがこの酷いもどかしさは、そこに至るまでの期待を高めるスパイス。何気ない積み重ねが、故に面白いのである。

 

ごく普通の日常を積み重ねるラブコメが好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

黒聖女様に溺愛されるようになった俺も彼女を溺愛している 1 (HJ文庫 と 06-01-01) | ときたま, 秋乃える |本 | 通販 | Amazon