さて、地雷系、というものに付随する要素はメンヘラである、と答えられる読者様もおられるかもしれない。メンヘラ、と聞くと愛が重い、と答えられる読者様もおられるかもしれない。では愛が重いヒロイン、という部分で読者の皆様はどこまでなら、愛が重いのは許せるだろうか。何処までの行動なら、笑ってみていられるだろうか。
ではこの作品ではどうなのか、と言う事であるが。その答えは、これから書いていきたい。
高校三年生、進学校に通いながらも進路先は就職を選び、放課後はいつも叔父の営む喫茶店でバイトに励む青年、景。彼のバイト先に最近常連となり、ずっと彼の事を目で追っている少女がいる。その名も甘音(表紙)。彼の暮らす地方都市では割と目立つ、地雷系の服装をしている彼女。
「美味しいですが、そればかりではあまり栄養が・・・・・・!」
その視線の意味を問いかけようと思う矢先、帰り道のスーパーで彼女に遭遇し、何故か食材に関するアドバイスを貰い。その後、今度は普通のメイクで喫茶店に来た彼女に話しかけ、その理由が判明する。
彼女は、甘えられる相手を求めていた。生来、五歳年下の妹達の面倒を見ていた事で世話焼きの性質が見につき、しかし妹達は留学でいなくなってしまい。世話焼きを生かして学校の部活のマネージャーをしてみれば、六つの部活を世話焼きすぎで堕落させて潰しかけてしまい。その果てに甘えられる相手を求め、景に目を付けていたと言う事である。
「これからちょいちょいあの子とどっか遊びに行くようにしろ」
その様子を見、叔父から業務の一環として、彼女に関わるように、と言われ。一先ず彼女に関わる事になり、休日にゲーセンに出かけたり。一緒にゲームをしたり、と何気ない日々を過ごす中で。甘音の中で、少しずつ景の存在が大きくなり始めていく。
―――さて、ここまで書いてきただけなら、普通の甘やかしラブコメである。しかし画面の前の読者の皆様、作者様の名前を見てほしい。藍月要先生である。この名前、忘れてはいけぬこの名前、ご記憶の方は描かれるヒロインについてもご存じであろう。 皆、愛に重くて狂っている、何処かヤバさを持つヒロイン揃いであり。時に主人公も、闇を抱えておるのだ。そしてこの絵師様、何かが起きないと言う訳もないのだ。
気になるにつれ、仄めかされていく彼の家庭事情。仄暗いものが見えだしていく中、体調を崩した時の看病から判明していく、彼の心の空虚すぎるという事。そして電話した妹の口から突き付けられるのは、彼女の消せぬ歪み。
『お姉ちゃんもそういう風に思ったら?』
結局、トータルではまともに何てなっていなかった。だけど、もう抑えることはしなくてもいい。まともじゃない、妖怪、最早怪異の類。だけどそれでいい。そうでなければ、まともではない方の方が、景を救える力となり得るのだから。
「そばにいるのなら、わたしにしませんか」
最早身を縛る、押さえつける鎖も無し。解き放たれる異常性、それは最早人間の形をした化け物が如く。その重すぎる愛が、毒親まっしぐらな母親に傷つけられる景の元へぶっ飛んだ手段で駆けつける力となり。彼の傷ついた心を埋め、そして新たに縛り付ける鎖となる。
「結局は、どっちもどっちだよ。おしなべて、碌なものじゃない」
どっちもどっち、本質的には変わっていない。それは不健全、綺麗なものじゃなくお互いにまともじゃない。だけど二人、割れ鍋に綴じ蓋と言わんばかりにお互いを埋め合えるからこそ。互いに手を取り合い堕ちていくような共依存的純愛なこの愛は成立するのだ。
重きに過ぎる愛に溺れたい読者様は是非。 きっと貴方も満足できるはずである。
Amazon.co.jp: 見た目は地雷系の世話焼き女子高生を甘やかしたら? (角川スニーカー文庫) : 藍月 要, tetto: 本