読書感想:バスタブで暮らす

 

 さて、過去には「四畳半神話大系」なるアニメが一部で人気を博していた訳であるが、実際の所、人間が住むのに必要な最低限の広さというものはどのくらいで、日本最小の物件、とはどれくらいのものなのだろうか? というのはともかく、最近引きこもりの中高年というものが増えているらしいが、それが社会問題になるというのは、世の中的にどうなのであろうか。

 

 

さて、という訳で多分、大別すればこの作品の主人公、めだか(表紙)もまた、「引きこもり」の部類となるのであろう。しかし彼女は望んでそうなった訳ではなく、理由があるのである。

 

 

予定より一カ月も早く生まれ、しかも逆子で低出生体重児。家族と共に何となく、普通に生きて来て小学生の時に知ったのは、自分は何にもなりたくないし、欲しくないと言うもの。 そのとき漠然と人間に感じていた違和感が明らかとなる。それは人間はテンションが高すぎる、というもの。 そのまま何となく、ごく普通に生き続けて、高校も大学も何となく選んで進んで、人並の青春を過ごし。

 

「お世話になりました」

 

しかし、就職した先のレストランで上司からのパワハラに遭い。気が付けば、人の顔が能の面をつけたように見えたり、へのへのもへじに見えたり。耐えきれず心を病んで就職一カ月にして退職して実家へ戻り。気が付けば、うつ的な症状に見舞われバスタブから出られなくなって。めだかはバスタブを唯一安心できる場所として、その中に生活道具を持ち込んで生活する事となる。

 

普通に考えれば、バスタブの中での生活、というのは窮屈に過ぎるかもしれない。しかし、そうはならなかった。一つ、大きかったのは受け入れてくれる家族の存在。 ちょっとしたルールを設けはしたけれど、温かく受け入れてくれて。更には悪戯好きだけど、クリエイティブな兄、いさきの助けによりVtuber「黒杜いばら」としてデビューする事となって。自分でもできる社会とのかかわり方を見つけ、ネット越しに人々に受け入れてもらって。少しずつ、彼女はまた歩き出すための準備を知らないうちにしていく。

 

「お母さん―――お母さんじゃ、なくなっちゃうからね」

 

 

そんな温くて緩い日々の中、突如として暗雲が忍び寄る。幾度となくがんに打ち勝ってきた母親に見つかった再発、兄の結婚。 そこで母親は急に牙をむき、めだかの視界に写る母親の顔に面が装着され、表情が見えなくなった母親は姿を消す。

 

 

自分のせいで、自分のせいに意味なんてないのに。だけど気付く、無意味でも生きていけると。その認識が彼女の世界を輝かせ、母を探す為の一歩を、踏み出させるきっかけとなる。

 

―――お世話になりました。

 

飛び出した先、待っているのは夢と現の交じり合う景色。見つける母親、けれど時間は待ってくれぬ。ならば最後は楽しく、家族で。 最後の思い出を共に、そしてめだかはバスタブを出る。皆で生きる、当たり前の時間に戻っていくのである。

 

 

ちょっと不思議で、けれど家族の温かさがある今作品。家族ものを読んでみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

Amazon.co.jp: バスタブで暮らす (ガガガ文庫 ガし 7-2) : 四季 大雅, 柳 すえ: 本