読書感想:スパイ教室05 《愚人》のエルナ

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前巻感想はこちら↓

読書感想:スパイ教室 短編集01 花嫁ロワイヤル - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、今巻の感想を語っていく前に、画面の前の読者の皆様を共有しておきたい認識が二つあるので、先に申しておきたいと思う。まず一つ、最近忘れがちかもしれないが元々「灯」はスパイ養成機関の落ちこぼれ達が集められたチームである。そしてもう一つ、この世界はスパイの世界である。故に、命は最も安いものである。それだけを覚えておいていただきたい。

 

極東の小国、龍沖。世界の西と東を繋ぐ中継点であり、様々な思惑を持つ者、様々な立場を持つ者が集うこの地に、クラウスと「灯」の少女達の姿はあった。

 

「―――若い時代が来るよ。これからは」

 

「蛇」の思惑は未だ見えず、けれど「紫蟻」による虐殺のせいで世界は混乱に陥り始め。本格的に動き出されたのなら手遅れ、だが各国のスパイ機関は次々と新人を前線に投入するしかなく。性急に塗り替えられ始める、スパイの世界の勢力図。

 

 だが、不可能任務を達成したとはとても思えぬほどに、「灯」の少女達は今日もまた未熟。スパイと思えぬ程に姦しく、任務を失敗してばかり。そんな彼女達の前に、新たなスパイの舞台が現れる。その名は「鳳」。「灯」の少女達がそれぞれ所属した養成機関のトップの六人を集めた最強最良のスパイ達である。

 

「言えないなら寄越せ―――お前たちのボスを」

 

ボスの殉職による不在により暫定的にボスを務める、リーダーのヴィンドは冷たく告げる。最強のチームと最強のボスが組むことが最良。故にクラウスの身柄を渡せと。

 

 無論、それを受け入れるわけにもいかぬ。ティアの機転により合同任務中の引継ぎと言う体裁へと形を変え、「鳳」との対決へと持ち込む「灯」。

 

では、リリィ達「灯」に足りないのは何か? それは「詐術」。養成学校の卒業前にしか習えぬが故に彼女達にはたどり着けなかった、自分だけの騙すスタイル。自分の特技と騙しを掛け合わせた自分だけの武器。これまで一般的な技しか持たなかった彼女達の、いわば必殺技とも言える武器である。

 

 方向性は分からない、けれどそれでも身に着けるしかない。機密を巡る任務、その中で繰り広げられる「鳳」との戦い。その中で自身の壁とコンプレックスを越えるべく挑んでいく「灯」の少女達。

 

そして、今巻は「愚人」のエルナに焦点が当てられ彼女の成長に焦点があてられる巻である。彼女の根底、そして彼女だけの特性。周りを一切合切関係なく、不幸へと巻き込む彼女だけの力をどう生かすべきか、そしてその根底。

 

「問題児一人相手にできなくて、何が教師だ」

 

 今巻を読まれた読者様は気付かれるであろうか。今巻の騒動が全て、予想外の要素はあれど「彼女」の掌の上で仕組まれていたという事を。

 

そして訪れるは、最悪にして最驚のエピローグ。再びいうが忘れてはいけない、この世界の命は何よりも軽いのだという事を。

 

迫り来るは、人の心と言う最大の弱点を突かんとする最悪の敵。舞台となるのは霧に煙る紅茶と王室の国。

 

さぁ、画面の前の読者の皆様。どうかお覚悟の程を。

 

ここから先は、更なる地獄が待っているはずだから。

 

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