読書感想:学園の聖女が俺の隣で黒魔術をしています

 

 さて、黒魔導と言えばブラック・マジシャンの必殺技である。という知識が出てくる私は元決闘者、マスターデュエルでのブラック・マジシャンの強化、お待ちしております。という益体もない前置きはさておき、画面の前の読者の皆様は「黒魔術」と聞いてどんな要素を思い浮かべられるであろうか。魔女が魔法陣を書いて生け贄を捧げているような絵面を思い浮かべられるであろうか。

 

 

存在感の無さにかけては右に出る者がいない、彼の事を認識しているのは家族だけ。そんな状況を良しとし、「空気のように生きる」という事を信条としている少年、京四郎。ミッション系の学校に入学し、入試の結果から新入生代表挨拶を任せられるも無難にこなし。いつも通りの、空気であるような日々が始まろうとしていた。

 

「今日、君に不幸なことが起きなかった?」

 

 しかし、唐突にその日々は覆る。彼の事を認識し声をかけてきた、「聖女」と呼ばれる先輩、冥(表紙)。ぐいぐいと来る彼女にいきなり使われていない旧校舎に招かれ、そこで目撃したのはガチめな魔法陣。何を隠そう、彼女はこの学園に潜む秘密結社、「ぐりもわぁる」の総帥だったのである。

 

彼女は言う、願いの叶うと言う言い伝えのある礼拝堂で誰かが君の不幸を願っていた。だからそれを叶えようと黒魔術をしてみた、と。そんな彼女に黒魔術の練習台になってとお願いされ、何とはなしにその話を受け。「聖女」よりも「魔女」という形容が相応しい彼女との日々が始まる。

 

 自分にとある事情から一方的な恨みを抱き呪おうとした孤高の天才、凛を活動に巻き込んだり。学園征服という目標の為に、信者を集めようと奮闘したり。冥の幼馴染であり保護者代わりでもある遥華に思いを抱く同級生の思いの仲立ちをしたり。秘密基地のような一室で、彼女の夢をかなえるために。振り回される中、京四郎は冥の思いに触れていく。神様は信じていないけれど、黒魔術は信じているという、彼女の純粋な思いに触れていく。

 

だがしかし、それは神に反する行いである。些細な切っ掛けから冥の行いは露呈し、当然のごとく彼女には厳罰が課され、離ればなれとなってしまう。

 

 まるで呪われるかのように、言われもない噂に晒され悪者へとなっていく冥。そんな彼女の味方である、その為に出来る事は何か。

 

「俺たちがするのは―――黒魔術だよ」

 

簡単な事である。自分達に出来るのは黒魔術だけ。ならば呪ってしまえばいい。呪いで上書きしてしまえばいい。空気であると言う信条を捨て、傍観者ではなく主役として。京四郎は総帥を演じ、学園を塗り替える形で彼女を助けて見せる。

 

それは優しい「呪い」。正にここにしかない青春なのである。

 

どこか懐かしき、からりとした空気と熱さのある作品。ちょっと時代を変えてみたいという読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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