読書感想:悪いコのススメ

 

 さて、「学問のすゝめ」と言えば福沢諭吉の著であるが今の時代においては歴史の授業で習う程度のものであり、実際に読んだ事のある読者様は中々おられないであろう。かの著作は内容的に言えば、人間の自由平等、独立の思想に基づいて従来の封建道徳を鋭く批判し実用的学問の必要性を説いたものであるらしい。というのはこの作品に何か関係があるのか、と言うとであるが。一部は関係あるし、一部は関係ないと言ってもいいかもしれない。

 

 

県内でも名高い進学校である私立西豪高校。だがその実態は「県内最上位レベルのすべり止め高校」とでも呼ぶべきもの。最難関の門をくぐれなかった敗北者、コンプレックスの塊達の流れる場所であるこの高校は、暴言から人格否定、更には学力差別まで当たり前に行われ、その全てがおかしいという事に気付かぬ小さな世界が形成されている、正しく絶望郷と言っても過言ではない場所であった。

 

「もし、先輩のそんな気持ちを解消できるとしたら、どうしますか」

 

 そんな世界に馴染み切れず、下手に教師に歯向かった事からある種の特別扱いを受ける少年、蓮。完全下校時間までの時間を屋上で、父親からくすねたタバコを吹かしながら過ごす彼に声を掛ける存在が一人。その名は胡桃(表紙)。退学する事を決意しつつも、最後にこの高校の全てに復讐する事を望む彼女は、蓮の不満を見抜き共犯者として彼を誘う。

 

一度は断るも、喫煙シーンの写真を人質に脅され協力せざるを得ず。2人きりの反逆譚は静かに幕を開ける。

 

まずは手始めに、成績上位のクラスに罵倒のハンコの罠を仕掛け。いきなりの事態に少しだけ高校の仲が揺れ惑う中、突然話しかけるようになってきた級友、由美と親交を深めつつも。実質廃部となった天体観測部の部室で、二人で計画を練り上げる。

 

「先輩、失礼します」

 

そんな最中、胡桃は蓮にタバコの代わりにディープなキスをし。恋愛感情を含ませず、これも叛逆だと嘯いて。少しずつ背徳の深淵に踏み込んでいく。

 

だが、そんな二人にすれ違う時がやってくる。成績下位の者達が出席を禁じられた文化祭を、各部活の部長たちを巻き込み、更には徴収金の不明な部分を突いて出席を認めさせ。当たり前の青春を楽しもうとする者達の姿に蓮は揺れ、あくまでも復讐に拘る胡桃と袂を分かとうとする。

 

しかし、一時の離別の中、蓮は目にする。結局、何かを変えたつもりでも結局、沁みついてしまった根性は変えられなかったという事。結局、闇は何処まで言っても闇であるという事を。

 

「躊躇する必要なんて、なかったんだ」

 

 彼女を失って気づく、自分の中の欠落。普通に逃げようとしていた、だがその普通に意味はない。ならばどうするか。答えは決まっている。今度は自分の意思で。胡桃に合流し、彼は自分の手で引き金を引く。文化祭をぶっ壊す、最悪な復讐の引金を。

 

社会の闇、そこに立ち向かう背徳。妖しくも退廃的、独特のエゴに満ちたこの作品。まさにこの作品にしかない味があり、エグみで切り込んでくる。だがそれが面白い。かののくたーんが無ければ、もしかしたら大賞を取っていたかもと思えるくらいに。

 

故に、独特の黒さで切り込まれたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

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