読書感想:クリムヒルトとブリュンヒルド

 

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読書感想:竜の姫ブリュンヒルド - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、竜へ献身的な愛を抱いたブリュンヒルドは孤独な旅へと旅立ち、悪へと変わった竜を己の手で討ち滅ぼしたブリュンヒルドは、王国の発展に努めた訳であるが。今巻では何を描くのか、という事であるが。それは「悪にならざるを得なかった正義」。 前巻の歴史から百年後、王国史から消された暗愚の女王、クリムヒルト(表紙左)。民達から謗られ罵られ、それでも自分なりに精一杯に駆け抜けた彼女の、多くの人の目には残らぬ閃光のような記録である。

 

 

「初代女王様の威光が失われてきているのですね」

 

父は姉妹が生まれてすぐに事故で死に、女王は公務で忙しく。しかし女王は懸命に奔走すれど、初代女王の威光は徐々に失われてきて。そんな中で女王は王家の人間の宿命である呪いの「蝕み」により倒れ、ブリュンヒルドもまた「蝕み」により衰弱し。彼女が止めるのも聞かず、クリムヒルトは女王にならんと背負い込もうとし、ブリュンヒルドは「蝕み」に対抗するために学院の地下で研究を始め、そこで封印されていた琥珀色の竜、ベルンシュタインと仲良くなり。しかし「蝕み」を治すことは出来ず、元々は人間であったベルンシュタインの人間の姿を取り戻させる事だけが出来て。 だけど、クリムヒルトの女王への即位を止めることは出来なくて。

 

「私も女王の一人として責を果たさねばなりません」

 

 

 そして、彼女にとって予想外の事態が訪れる。夜、襲来してきたのは女王になったクリムヒルト。彼女は女王となった事で、この国に伝わる呪いと、この国の強みである「生命の霊薬」、その忌まわしき成り立ちを知ってしまった。 それがどれだけ忌まわしきものだとしても、守らねばならぬ、と。冠にも宿った女王の遺志に苦しめられる彼女を救うため、ブリュンヒルドは立ち上がらんとする。

 

味方となるのは、シグルズの家系に生まれた下級兵士、アニマ。敵となるのは初代女王からの忠臣、ウォレン。 救う為に力を尽くし、しかし最強の忠臣の力の前に準備は容易く瓦解し、それでも取り戻すために、仲間を失ってでも戦い抜く。

 

「永遠の王国が創れなくとも・・・・・・」

 

突き付けられるのは、状況の好転、というのは絶対に出来ないと言う事。細やかでも夢見た、永遠の王国。そこに手をどれだけ伸ばそうとも、決して届かない。創れないと、これでもかと突き付けられる。 だとしても、例え暗君と謗られようとも。それでも彼女は、王国を、民を愛した。 誰もその功績を知らないとしても、初代女王の威光から脱するための礎を、その生涯を通して作り上げたのである。

 

例え誰に覚えられてなくとも、という無償の愛が見える今巻。シリーズファンの皆様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

Amazon.co.jp: クリムヒルトとブリュンヒルド (電撃文庫) : 東崎 惟子, あおあそ: 本