読書感想:勇者と呼ばれた後に ―そして無双男は家族を創る―

 

 さて、現在放送中であるドラゴンクエスト ダイの大冒険という作品は前勇者であるアバンの冒険の後の時代を描いた作品である。と言う事はどういう事なのか。それ即ち、勇者にだって目的を果たした後の人生が存在すると言う事なのである。我々が様々な作品の中で見ているのは彼等の人生のその一瞬、だからこそ我々が見ていない部分の人生があるし、目撃する人生にもその先があるのである。

 

 

では、もし平和になったのならば勇者のような強大な力はいるのだろうか。とある諺にもある通り、平和になった時代においては、強大な力はいらなくなることが多いのである。

 

「皮肉なものよ。誰もに望まれた救世主は、世界を救った今、また別の脅威となるのだ」

 

人間と魔族が争う、とある異世界。その世界で、勇者を生み出すとある計画により生み出され、只一人の成功例として単独で魔王軍を壊滅させた勇者、ロイド。(表紙中央) 彼は戦後、その力を王に疎まれ脅威とみなされ、あわよくばも狙う厄介払いとして、強大な魔物、「皇帝竜」の住まう辺境の地へ領主として送り込まれたのである。

 

「別に。オレには何もないからな」

 

 しかし、魔王から神にも近いと呼ばれる力を持つロイドにとって、皇帝竜は苦労する事もない相手であった。しかし竜の中に殺意がない事を感じ命を見逃した事で。その中に未来を感じた皇帝竜、イヴリース(表紙右)は彼の嫁となる事を決め、彼と共に暮らしだすのだ。

 

それはロイドの排除を狙う王からすれば歓迎すべきではない事態。だがいくら彼を死に向かわせようとも、ロイドは規格外の力でその全てを跳ね除けていく。

 

過激派組織の壊滅に向かえば、「災厄の魔女」と呼ばれていた少女、ソフィア(表紙中央下)を保護し娘として迎え。

 

家族で町に繰り出してみれば、魔王軍残党に追われる魔王の娘、アリス(表紙左)と関わる事となり。彼女に関する因縁を清算したうえで、彼女もまた家族の一員として迎え入れる。

 

「家族と食うなら、なんでも美味い。・・・・・・はずだ」

 

 家族が増える度、自分の周りが賑やかになっていく度。空虚だったロイドの心の中、今まで知らなかった感情が生まれていく。何と言うのかは分からぬけれど、それでも大切にしたいと言う思いがある気持ちが沸いていく。それは正しく「家族愛」。愛を知って、人形のようだった勇者は人間となっていく。家族を大切にすると言う思いが沸いてくる、だからこそ、最強の刺客である自らの弟、カインを相手にちょっとだけ本気を出して立ち向かう。今新たに出来た、大切にしたいものを守り抜くために。

 

家族愛の温かさ、心を埋める面白さがあるこの作品。心を温めたい読者様は是非に。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

勇者と呼ばれた後に ―そして無双男は家族を創る― (講談社ラノベ文庫) | 空埜 一樹, さなだ ケイスイ |本 | 通販 | Amazon