読書感想:やがてラブコメに至る暗殺者

 

 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様にとって、「暗殺者」と聞いて思い浮かぶのは誰であろうか。某有名マンガの、母親役となった暗殺者、某ラノベの触れるだけで相手を殺してしまう暗殺者、若しくはとある漫画の幾度となく神業な狙撃を成功させてきた暗殺者。様々な答えが、読者様の数だけあるであろう。しかし暗殺、と一口に言っても数々の方法があるのも確かである。例えば狙撃で脳天をぶち抜いたり、すれ違いざまに刃物で急所を一突きしたり。様々な方法があり、その方法の数だけどんな場所でも暗殺の舞台となるのである。

 

 

ではこの作品のタイトルにも入っている「暗殺者」、はどうなのか。どう殺そうとするのか。この作品における暗殺者は、何方かと言えば心を殺す。所謂ハニートラップ的な暗殺を狙うのである。

 

「これからは、恋人としてそばにいたい!」

 

イギリスからやってきた、日英ハーフの金髪碧眼、正に非の打ち所がない美少女、エマ(表紙)。彼女と主人公である平凡な少年、シノはひょんな事から絆を深め。エマはシノに告白し、恋人同士となる。

 

「何もかもぜ~んぶ奪い取ってやるんだから!」

 

「ならば、理想的な展開になったということか」

 

 エマがお昼ご飯を作って来たり、お互いにプレゼントを贈り合ったり。初々しい恋人のような二人、その裏にはそれぞれ刃を隠し持っている。

 

世界でも有数の巨大企業を一代で築き上げながらも、多数の養子を残し亡くなった大富豪。その莫大な遺産を巡り相争う養子たち。その一人であるユキとエマはとある目的のために手を組んでいる。 それはシノも似たようなもの。遺産を引き継ぐものとして選ばれた彼は、刺客達と日々戦いながらも企業から出される指示を受けている。

 

エージェントとしての彼の名は「新影」、父親のダンは「盾」、母親のイズナは「調色板」、妹のチヨは「開拓者」。 エマは自信の目的のため、シノを操り人形にしようと目論み。シノはエマを引き込め、という指示の元に彼女を逆に取り込もうと動き出す。

 

しかし、ここで二人のぽんこつが同時に炸裂する。何かを隠している事を隠しきれず、やり取りがぎこちなくなり。更にシノの方が、教材も少女漫画で周りにも恋愛強者がいないという手詰まりで、頓珍漢な行動を突き進む。

 

ちぐはぐな行動を繰り返す中、エマの本当の目的である、難病を抱えた妹を救うと言う狙いが暴かれ。他の養子から送り込まれた暗殺者に襲撃されたのも相まって、お互いに真実を明かし合い、二人は別れる事となって。だがそんな事は知った事かと言わんばかりに、エマとシノの家族達を巻き込み、身近に潜んでいた刺客が牙を剥く。

 

「お前達の策は、全て失敗に終わっている、と」

 

人質まで取られ絶体絶命、最早打つ手なし。・・・・・・しかし、それは彼等の狙い通り。刺客の狙いは決して叶う事はない。何故ならば、前提条件から既に違うから。彼等の別の名前、そこに隠されている真実に気が付かなかったら。

 

 

この作品の題名の「暗殺者」、それは二人の人物を表しているのかもしれぬ。ドタバタやりながらも恋人同士として、ささやかな幸せのために奮闘する、そんな彼等の頑張りがとても面白いのがこの作品なのである。

 

くすりと笑えて燃えて萌えられる作品を読んでみたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

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