さて、時に画面の前の読者の皆様。まずは「ビジネス」という単語を聞いて、連想するものは何であろうか。その答えは様々であろう。例えば経営コンサルタント、もまたビジネスであるし株取引もまたビジネスであろう。しかし、ここで考えてみて欲しい。皆様は「ビジネス」を題材としたマンガやラノベを見たことはあられるであろうか。漫画はともかく、ラノベではないかもしれない。それは何故なのだろうか。
それはやはり偏に、ビジネスという世界の難解さがあるのではないだろうか。例えば株取引だけでも、一般人にとっては訳の分からぬ単語が乱舞している。そもそもどう儲けるのかも分からない。そういう意味でも、ビジネスとは題材に向かないのかもしれない。
だがしかしこの作品は、ビジネス頭脳バトル×バディ系ラブコメである。ビジネス頭脳バトルとは何なのか。それを今から語っていこう。
ワールドビジネス育英財団、通称WBF。若年経営者の中から門下生を選抜し、もっともすぐれた門下生に十兆円を支給すると言う、理想の世界を叶える機会を与える、伝説的ビジネスパーソンが死の間際に全遺産を投じて設立した、ビジネス支援組織。その日本支部で開かれる、選抜試験。そこに向かう一人の影。その名は成(表紙後方)。齢18にして1000を超す企業をサポートした「天才コンサルタント」、異名を「成功請負人」。
「ねっ、”友達”いりませんか!?」
試験会場に向かう道中、彼に一人の少女が「友達」を押し売りしてくる。その名は伊那(表紙手前)。南方の離島である生まれ故郷を盛り上げる会社を設立したばかりの、ビジネス初心者。
彼女の考えは無知すぎる甘い物。しかし彼女は成の威圧にも怯む事がなく。それどころか、成を驚かせるとある知識まで披露し。彼に呆れられつつも、二人は共に会場へ向かう事となる。
「ありがたいお話ですが―――お断りさせていただきます」
試験会場で再会する、土建屋の社長の陸とハウスメーカー社長の京の兄妹。新たに出会う、大手ライバー事務所の代表で元暴露系配信者の浩紀。一次試験、それは「自己株」という謎の専用の株の価値をあげろというもの。浩紀から持ち掛けられる共闘の誘いを成は断り。コンサルとして己の思惑で、伊那と組むことに決める。
経営に関してはポンコツ、本人もおっちょこちょい。そんな彼女に何の才能があるのか。それは天性の人たらし、混じり気のない善性。人脈作りの為に成に預けられた彼の既知の相手の元、その才能はどんどん磨かれ、次々と人脈を広げていく。
それをよく思う浩紀である訳もなく。大手ライバー事務所の社長としての人脈を使い仕掛けてくる最悪の妨害。それに対するため、成もまた用意していた完璧に叩き潰す一手で返す。
ではここまでで、画面の前の読者の皆様はどう思われたであろうか。ビジネス、というのは一種の潰し合いであると思われる読者様がおられたら、浩紀が潰される、という光景を予期されるであろう。
「だってこれじゃ、だれもハッピーになれないよ」
・・・・・・しかし、その道は覆される。限りない善であるからこその伊那の願い、彼女が見つけた成の心の軋み。その願い、正に図星。それは依頼者の願い。ならば叶えるのがコンサルの務め。彼女の言葉と頑張りで、全員幸せになるビジネスへと道は作り変えられる。
だけどこれは始まりでしかない。まだ彼等はスタートラインに立ったばかり。そしてまだまだ、彼らも知らぬ化け物達が待ち構えているのだ。
ビジネスと言う取っつきにくい題材を、伊那という初心者の目を通して教えることで分かりやすく噛み砕いて。気が付けば引き込まれていく、どんどんとビジネスに心踊らされていく。
ああ、正しくこれは「ラブだめ」こと、「現実でラブコメできないとだれが決めた?」の血を継ぐ作品だ。 正に唯一無二、だけど気が付けば読み終えている。そういう意味でこの作品は「人たらし」、本当に面白いと太鼓判を押したくなる作品である。
見た事もない世界を目撃してみたい読者様は是非。
きっと貴方も満足できるはずである。
Amazon.co.jp: 彼とカノジョの事業戦略: ~“友達”の売り方、教えます。~ (ガガガ文庫 ガは 8-7) : 初鹿野 創, 夏ハル: 本