読書感想:霊能探偵・藤咲藤花は人の惨劇を嗤わない2

 

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読書感想:霊能探偵・藤咲藤花は人の惨劇を嗤わない - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、前巻で「かみさま」のいない世界の中をあてもなく、ただ二人だけで生きていく為に何処へ行くとも知れず。「かみさま」の死んだ混乱を突き、逃走を始めた藤花と朔であるが、その逃亡劇はきっと長くは続かない、とは画面の前の読者の皆様も思われているのではないだろうか。何せ彼等を追う「家」の力は圧倒的、下手をすれば警察等の公的権力の投入さえもあり得てしまう。そんな事になったとしたら、只の一般人である彼等には何も出来ぬ。

 

 

「朔君とふたりだけの世界がいい」

 

それでも、彼女達は逃げ出していく。何処までも、行ける所まで。そんな彼等の元へ接触してくる影があった。その名は未知留。藤咲以外にもいくつか存在する異能を司る家の一つである永瀬の手の者であり、計十二人の占いに携わる巫女を有する家である。

 

「迎えいれるには、条件があるのです」

 

迎え入れる代わりに試練を乗り越えろ、一方的に告げられしかし断るわけにもいかず。未知留達が見た、藤花が依頼を解決する光景に基づき、永瀬へと持ち込まれた事件へと関わった事で。朔と藤花は新たな怪奇と猟奇が絡み合う事件の中へと飛び込んでいく。

 

美しい娘を溺愛する男の、「泳がない金魚」と名付けられた写真へ対する、謎の詩的なコメントから始まる、不可解さの中に狂った真実が隠れている事件。

 

そして「永瀬」の家、全てを「白」という色で占拠された家の中で次々と巻き起こる連続殺人事件。首を落とされ殺害されていく巫女達、謎の血痕の残る地下牢、そして当主が持っている筈だった犠牲者の首が無くなると言う謎の事件。

 

 「永瀬」の家で垣間見えるのは何か。そこにあるのは、狂気的な結論ですら当然と許容する歪んだ価値観の支配する、歪な箱庭。何かに疲れた者、何かを望む者の思惑。そして誰かが誰かへ向けた恋心。過去の一瞬の思い出を大切にし、その思い出から来た恋を叶える為に全てを変えようとした少女の、いっそ無垢なまでの思い。

 

「俺には、おまえを救えない」

 

だけど、それでも。受け入れるわけにはいかぬ。もう救われているから。この歪な箱庭を壊したのは自分の罪、だけど愛は受け入れられぬ。一つ以外の愛はいらぬ。だからこそ伸ばされた手を振り払い、地獄へと突き落とす。地獄を背負い、また地獄の中を歩いていく為に。

 

 ああ、何とも醜悪なまでに美しく。狂気的なまでに切なく、もの悲しい。正にここに描かれているのは地獄。人の「業」、そして「愛」が作り出してしまった、誰も救われぬ悲しき世界。だがそれでも進むしかない。もう選んでしまったのだから。

 

「永瀬」とのかかわりの先、待っている衝撃の言葉。果たして彼等はこれからも逃げられるのか。

 

前巻を楽しまれた読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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