読書感想:義妹生活8

 

前巻感想はこちら↓

読書感想:義妹生活7 - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、前巻で恋人同士としてのステップアップとなる受け入れてくれるコミュニティを作る、という方向性を知った悠太と沙季の二人であるが、画面の前の読者の皆様はお察しであろう。この作品のラブコメは長期戦であるという事は。一朝一夕でコミュニティは形成できぬ、特に彼等はもう新たな季節を迎えようとしている。そしてもう彼等は高校三年生。既に関係はある程度固まり切っており、ここから新たなものを作っていく、というのは難しいものがあるのである。

 

 

「今年は同じクラスだね。よろしく」

 

という訳で、春休みも終わり新たな季節。高校三年生への進級、いよいよ受験を見つめ将来を決める戦いの時が迫る最後の一年。仲間達とはそれぞれ別のクラスに分かれたりしながらも悠太と沙季は同じクラスとなり。学校ではクラスメイトの範囲で会話する、という方向性のすり合わせを行い。新たな一年が幕を開ける。

 

「教室でも、もっといっぱい話したい。もっと近くにいたい」

 

・・・・・・だがしかし。あまり周りから騒がれたくないと望んだ沙季の方向性が皮肉にも彼女も悠太も追い詰める結果となっていた。一度知ってしまった甘美さはそう簡単に離せるものではなく。プライベートでは恋人、学校ではクラスメイト。二つの顔を使い分けなければいけない、という事実がすり合わせを歪ませ二人の間にすれ違いを生んでいく。

 

絶対にこのままじゃだめだ、そんな事は分かっている。けれど、もう一度すり合わせをしてネガティブな結論が出てしまったのならどうしよう。そんな後ろ向きな想像が再びのすり合わせを拒む。それはやはり知ってしまったから。勢いのままに強引にすり合わせ、解れを見ないふりをしてしまったしわ寄せがここだと言わんばかりに襲い掛かってきているのだ。

 

「親に恵まれず、愛情に飢えた状態の者が恋人関係になったときに、相手の愛情に対して過剰に求めてしまう、というのはありそうな話だと思わないか?」

 

もやもやは心を苛み、パフォーマンスを削っていく。その解決となるのは、工藤准教授の言葉。心理学、という面から二人の関係を客観的に見たが故に告げる、大人だからこそのアドバイス

 

「だから、名前呼びよりも遠くて、兄呼びよりも近い呼び方を考えたの」

 

学校ではより近く、家では適切な距離で。もう一度二人の関係をすり合わせ、二人はとりあえずの答えを選ぶ。近すぎた関係をもう一度是正するための、二人だからの答えを。

 

果たしてその先、何が待つのか。シリーズファンの皆様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

Amazon.co.jp: 義妹生活8 (MF文庫J) : 三河 ごーすと, Hiten: 本