読書感想:箱入りお嬢様と庶民な俺のやりたい100のこと その1.恋人になりたい

 

 さて、身分違いの恋、というのは古典まで遡れば歴史の教科書で習うような作品が出てくるのかもしれないが、ラノベ読みとして思い浮かぶ作品をあげるのなら、「乃木坂春香の秘密」シリーズ辺りをあげられる読者様はどれだけおられるのだろうか。身分違いの恋、という点においてはあの作品は有名な部類であろう。では、そのような恋のパターンにおいて、王道的なイベントとは何であろうか。

 

 

その答えは様々あり得るかもしれない。例えば、身分が高い側の親との激突だったり、ヒロインが世間知らずで秘密の共犯者となったり。といったパターンもある。往々にして、そのような作品は障害を乗り越える事が、見所となる事が多い。この作品もまた、そういった面白さに満ちているのである。

 

「じゃあ今日一日、俺がそういう友達になってやる」

 

ごく普通の母子家庭で育った、自転車屋の息子。しかし母親である千華に一緒の英才教育を受けた事で、積極的で品行方正、そして成績優秀に育った少年、勇輝(表紙左)。ある日、千華と共に聞きに行ったクラシックコンサートにて演奏していた、純奈(表紙右)が監視を抜け出、一人きりで出歩いていたところに遭遇し。自由を求め家出した、という彼女に付き合い、友達となって共に冒険に出る事となる。

 

やりたい事を書こうとノートを買って、純奈の空を飛んでみたいと言う願いに答え、バンジージャンプに勇気を出して挑み。けれど楽しい時間も束の間、御迎えに来たメイドの千影に連れられ、勇輝と純奈にも別れの時が訪れる。

 

「出会ったばかりだけど、俺はもう君のことが好きだ」

 

しかし、そう思いきや、勇輝はそれは嫌だとばっさり言って見せた。姿を現した純奈の父親である晴臣に対し、純奈の通う学園に合格して見せると啖呵を切り。一先ずは友達となる事になる。

 

告白する為、始まる受験勉強。合格ラインには届いている、だがそれだけでは足りない。庶民として足を切られぬようにするのなら、まずは首席合格するしかない。いきなり高いハードル、だけど諦めない。受験勉強を始めながら、時に千影の監視の元で純奈と出かけたりして絆を育み。少しずつ、ひたむきに努力していく。

 

だが、やはりそう簡単にいかぬのが世の常であるらしい。初詣、そこで遭遇した泥棒騒ぎ。その顛末の中で純奈と自転車の二人乗りをしてしまった事で晴臣の逆鱗に触れ、更には事件の中でケガをしてしまった事で受験が絶望的なものとなってしまう。

 

「その答えを聞く間では終われない」

 

「愛してるから」

 

―――それがどうした、だから何だ。この胸に燃える思いは消えていない、なら立ち止まれるものか。親の言いつけを破り駆けつけた純奈に背を押され、根負けした千影に手荒に激励され。胸を張って勇輝は受験に挑む。

 

「彼氏彼女になりました」

 

「なりました」

 

その努力が実を結ばぬわけがあるものか。だけどこれはスタートライン、まだ始まりに立ったに過ぎぬのである。けれどその頑張りは、まさに輝いている。だからこそ応援したくなるのだ。

 

真っ直ぐな青春の輝きと純粋な恋が溢れている、瑞々しさと輝きに胸を打たれるかもしれないこの作品。胸を打たれたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。