読書感想:決して色褪せることのない夏の日々にボクは諦めきれない恋をした

 

 さて、突然ではあるが人は死んだら何処へ行くのだろうか。幽霊となって大切な人を見守っている、という事は本当にあり得るのだろうか。という話はともかく。幽霊とラブコメする話もラブコメ界には時折存在、はしている。しかし基本的に人は死んだらそれまで、である。死んだらそこまで、心残りを残したりしていても、どうしようもないのである。

 

 

しかし遺された人は、そう簡単に割り切れるものでもない。例えば故人と恋を育んでいたりしたら。そこに残るのは、心の傷と心残り。それは簡単に割り切れるものではない。

 

「俺はココにいるからな」

 

同年代の少年に比べてしっかり者ではあるけれど、それは無意識に背伸びしている証な少年、ナツシ。彼は同居人である海華(表紙)がうなされている時、そう声を掛ける。だけどそれは偽りの言葉に過ぎない。

 

 それは一体、どういうことなのか。それは彼女が一回りほど年上の幼馴染であり、兄である陽の婚約者であったから。だけど陽はもういない。突然の事故によりその命を奪われてしまい、海華の心はまだ彼の影に囚われたままなのだ。

 

そしてナツシもまた、彼女に長年届かぬ思いを抱き淡い片想いをしていた。けれどもう手は届かない、兄の婚約者になってしまったから。でも兄はもういない、だけど思いを届けられない。宙ぶらりんとなり、尻込みしてしまっているのである。

 

付け込めばいい、と画面の前の読者の皆様の中にはいう人もいるかもしれない。だけどそれが出来ないのが彼なのである。彼女の心の傷を少しでも癒そうと寄り添い、けれど自分の思いは決して届かないと思い、せめて独り立ちしようと決意する彼へ、兄のいない夏が来る。

 

ふとした瞬間に実感する、空を切る呼びかけに諭される、もう彼がいないという事。だけど夏は、また来た。その中で、己の思いを固めていく。

 

だけど、本当にそれは正しい事なのか。離れるのが、正しい事なのか。

 

「あんたはもっと我がままになりな」

 

「失敗してもメゲんなよ」

 

我がままになっていい、失敗したっていい。人は一人では生きていけない、そして海華は一人にしていいタイプの人間ではない。陽の元カノであった円と、その弟である親友であり悪友のゴローに激励され、背を押され。ナツシは思い出の祭りの中、もう一度思いを伝える為に勇気を出す。

 

例え今は届かないと分かっていても、諦めない。この思いを持ち続けていつか届けるために、今は一歩踏み出していく。

 

「―――大好きだよ」

 

その結果、未来に何が待っているのか。それは是非、皆様の目で見届けて欲しい。

 

鮮烈にもの悲しく切なく、だけど確かに心に刺さるラブストーリーであるこの作品。心に残るラブコメを読んでみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。