読書感想:喋らない来栖さん、心の中はスキでいっぱい。

 

 さて、言葉が話せぬヒロインと言うと画面の前の読者の皆様は誰を連想されるであろうか。言葉が話せぬ、その理由は外傷であったり、心因性であったりと様々な場合がある。ではそんなヒロインと交流する場合には何が必要なのか。それこそ特別なツールが必要なのであり、時にはちょっと不思議な力も必要となるのである。

 

 

舞台となる田舎の高校に、年度が切り替わる直前と言う微妙な時期に転校していた少女、瑠璃菜(表紙)。常にタブレットによる筆談で会話する程に無口であり、淡々とした性格から、すぐに周りの反応は興味から敬遠に変わり。いつの間にか彼女は、周りから浮き孤立を始めていた。

 

「なぁ。今日は一緒に行かない?」

 

 そんな彼女に、月に一度のボランティア活動で訪れる運命的な出会い。それこそはこの作品の主人公である少年、律。彼女に声をかけ、まるで心の声が聞こえるかのようにそつなく動く彼には一つ、秘密があった。それは、何故か彼は周囲の人間の心の声が聞こえると言う事。故にそつなく立ちまわる彼のその姿が、彼女に抱かせたのは憧れの感情。

 

【鏑木君になるにはどうすればいい?】

 

彼のようになりたいと、意を決して彼にタブレット越しに声をかけ。彼女の思い、心の声をくみ取った律は彼女に手を貸す事を決め、秘密の関係が幕を開ける。

 

話しかける為に、まずはきっかけとなる趣味を見つける所から始め。日々どうすればいいのか、とあーでもないこーでもないと言いながら、若い頭を二つ突き合わせて考える日々。

 

だがそんな日々の中、瑠莉菜は目撃する。心の声が聞こえると言う秘密を知らぬまま、周りとうまく付き合い、いつも何かの中心にいる彼の姿を。その隣に自分がいていいのか、自分に時間を使ってもらっていいのか。遠慮の気持ちを抱き、他愛もない噂にすれ違い。それでも向き合い謝り合って、もう一度協力していく。

 

律の家に泊まったり、二人で寝たり。甘酸っぱいイベントが絆を育み、瑠璃菜の背を押す。だが最初からうまくいく事なんてない。頑張ったけれど、届かなくて傷ついてしまう。

 

「辛い時は、泣いてもいいし、叫んでもいいんだよ」

 

 そんな彼女の元へと律は駆けつけ、彼女を受け止め優しく励ます。今まで自分が見てきた姿、ギャップに塗れた心の声を知っているからこそ、彼にだけは出来ること。そして年度が替わろうとする中、二人の師弟関係から続く新たな関係は幕を開けるのだ。

 

『スキ』、そこに込められたのはlikeかloveか。心の声が聞こえても、それは聞こえはしない音。正に変化はスクランブル、新しい物語は突然に。

 

可愛らしくて瑞々しくて初々しい、真っ直ぐに描かれたラブコメが光るこの作品。故にラブコメとして、真っ直ぐに王道な面白さを持っている。是非に読んでみてほしい。

 

真っ直ぐなラブコメを読んでみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

喋らない来栖さん、心の中はスキでいっぱい。 (角川スニーカー文庫) | 紫ユウ, ただの ゆきこ |本 | 通販 | Amazon