読書感想:死亡退場するはずの“設定上最強キャラ”に転生した俺は、すべての死亡フラグを叩き折ることにした

 

 さて、ゲームやラノベ、様々な媒体の物語の中、例えば戦闘のような要素を伴うものにおいて「最強」として扱われるキャラクターは往々にして存在するものである。そういった存在は、戦う時においては圧倒的な力による無双で見ているものを湧かせ、退場シーンにおいては時に感動を齎して退場していく事も多い。ではそういった存在は一体、どんな時に負けるのか。それに関しては様々な事情がある場合が多い。

 

 

この作品における主人公が転生した存在、ジル(表紙右)もまた「最強キャラ」の一人である。転生する前の世界で大流行したゲーム、「ヴァリアブレイド」において「最強」である彼。そんな存在に転生したのなら、さぞかし人生は無双に満ちたイージーなもの、と思われるかもしれない。

 

だが、そんなことはない。何故か。それは彼が「設定上」の最強キャラであるから。彼は本来、ゲーム開始前に死んでおり、ゲーム中では話を伝え聞くのみ。もうお分かりであろう、この転生における困難さが。

 

そう、ゲーム知識が通用しない。死因も待ち受けるイベントも分からぬ以上、予想しようがない。何も見えぬ中で生き延びねばならない。だとしても、生き延びる。ジルは決意し、この世界における父親に送り出され、この世界で一番の名門校、「ミザライア王立学院」の門を叩く。

 

「俺が生きている限り、お前は絶対に死なないさ」

 

が、入学して早々に、ゲームのヒロインである第三王女、セレイン(表紙左)の誘拐事件に巻き込まれ。盗賊のアジトである古代遺跡から脱出しようと思ったら、伝説の存在である魔人らしき存在、サルヴァと激突する事となり。本物の「ジル」としての意識が体を使い戦った事でなんとかその場を脱する事に成功する。

 

けれど彼の受難はまだまだ終わらなかった。クラス分けの試験の中で予想外に強大な魔物に遭遇し、奥義を生かし何とか突破した後で、既存のクラスには属さない「ゼロクラス」という特別学級に配属されたのである。

 

級友となるのは男装少女のルミエ、敵人物との関連性が疑われるレオン。強者の風格漂うリスタ先生に導かれ、彼の事を心配したセレインの訪問を受けたりしながら、ジルは仲間と共に強さを得ていく。

 

その中で気付いたことがある。彼の窮地になると発現する、本物の「ジル」という力。だがそれは、武器ではなく寧ろ呪い。発動するたびに運命のレールを進まされる、決して頼ってはいけない力だったという事を。

 

 

「俺は俺のまま、お前を殺す」

 

だからこそ、彼はもっと強くならねばならぬ。歴史の果てに消されたくなければ、生き延びるしかない、彼だけの力で。セレインを攫い、彼との決着を望むサルヴァと向き合い。本物の「ジル」との激突を望むサルヴァへ颯爽と宣言し。彼は戦いに身を躍らせるのだ。

 

平坦な道のりではなく、真っ直ぐな転生ものではなく。だからこそ一周回って王道的な面白さのあるこの作品。心燃やしたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

死亡退場するはずの“設定上最強キャラ”に転生した俺は、すべての死亡フラグを叩き折ることにした (ファンタジア文庫) | としぞう, motto |本 | 通販 | Amazon