読書感想:造られた彼女たちのヒミツを俺だけが知っている

 

 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。皆様は鉄腕アトムはご存じであろうか。かの作品において描かれた未来はもうとっくに来ている訳であるが、かの作品で描かれた景色は未だ実現していない。しかし、例え牛歩であっても少しずつ技術は成長している訳で。昭和の時代からは想像が出来ないような世界が今、実現しているのも確かである。

 

 

という訳でこの作品に触れていく訳であるが、この作品もまた近未来が舞台である。そしてこの作品にも、ロボットならぬアンドロイドが登場する。その名は「フェシット」。どのような生体パーツとしても培養できる「人工細胞」、人間の脳と同様な情報処理を可能とする結晶体、「イデア」の開発により生み出された人造人間。人間と同じような活動は出来るも年は取れない、典型的なアンドロイド。まだまだ高級品であり持っている家庭も少ない中、両親がフェシットを研究する科学者である少年、流人にとっては関係の無いニュースであった。

 

「だからさ、あたし〈フェシット〉じゃん」

 

だがしかし、高校入学当日。フェシットの研究機関が運営し、フェシットの生徒が数多い私立校で、流人は衝撃の事実を知る。それは義妹であるりお(表紙)がフェシットであった事。しかも彼女は、とある計画で作られた特別なフェシットだったのだ。

 

一先ずその事実を飲み込み、クラスメイトである美奈と修司もフェシットであると知り。フェシット特有のトークに巻き込まれたりしつつも、少しずつ彼等の事を改めて受け入れていく。

 

が、しかし。流人はまだ知らなかった。この世界で「フェシット」がどういう扱いを受けているのかを。どういう存在であるのかを。

 

そも、フェシットとはどう扱われるのか。家族のように迎えられる彼ら。だが彼等は年を取らない、そして彼等はイデアの設定上、中々性格を変えられない。そして彼等はロボットではない。きちんと自分の心を持ち、意志を持っているのだ。

 

「〈フェシット〉は人じゃなくて物なの」

 

もう言うまでもないだろう、説明するまでもないだろう。まるで人間のよう、だけど彼等は人間ではない。何処までいっても物であり商品。だから家族とうまくいかなければ、廃棄処分の可能性だってある。人造人間、と言っても人権はない。彼が知らぬだけで世界は醜悪だったのだ。

 

そんな状況を何とかしたい、けれど自分に力はない。だけど出来る事を少しでも。流人は母親であり理事長でもある麗にお願いし、りおや修司たちと共に一つの計画を立ち上げる。それは「疑似家族計画」。まるでおままごとのように家族生活を繰り広げ、家族としての在りかたを学んでもらって軋轢の解消を目指すもの。

 

その第一号として、生徒会長であるルイが抱える問題に向き合う事となり。本物の「ルイ」を求める彼女の家族と、自分らしくと願う彼女の間で思いをすり合わせていく。

 

「あたしはお兄ちゃんとずーっと一緒にいるよ」

 

いきなり大きくは変えられない、けれど少しでも変えられれば、積み重ねていけば。これからも頑張る事を決意する流人の隣、りおもまたその道に乗る。兄への恋心を少しだけにおわせながら。

 

どこか切なく重く考えさせられるジュブナイルの中、仄かなラブコメが香るこの作品。普通のラブコメに飽きた読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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