読書感想:朝比奈さんの弁当食べたい 2

 

前巻感想はこちら↓

読書感想:朝比奈さんの弁当食べたい1 - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、前巻を読まれた読者様は主人公である誠也やその仲間達が置かれた歪な環境、というのは既にご存じであろう。ラブコメ、というジャンルでは考えられぬほどの歪で深い闇。言ってしまえば、社会という枠組みの中でも大分底辺、正に掃きだめ。そんな暗い世界で生きてきた彼等の絆は、そう簡単に切れるものではない。そしてそんな世界で長く生きてきた者達は、そう簡単にその世界から逃げ出すことは出来ないのである。

 

 

『朝比奈さんに会いたい』

 

それでも、誠也は少しずつ。亜理沙と恋人同士になって、まだ恋人としての触れ合いは無いにせよ、少しずつ欲を出すようになっていって。少しずつ、光の世界へと。毒親であっても一応は母親であった存在を失ってから、まるで糸が切れた人形が人間になるように。変わり始めていく。

 

だけど、それを面白く思わない存在がいる。それは、誠也の後輩である結衣である。

 

「私のことを、絶対好きにならないで」

 

あの日、この店に売り飛ばされて誠也に出会った。この店で改めて知った、人間と言う存在、大人と言う存在の欲望の醜さを。そんな黒さと、誠也はある意味で無縁であった。だから、彼女は彼に縋りついていた。好きにならないで、という約束を盾に、ふわふわとした関係を繋いでいた。

 

だけど、彼は出会ってしまった。亜理沙という存在に。彼女に出会い触れ合う中で、彼の知らない顔が増えていく。約束があるから、背を押して送り出す、その役目に終始するはずだった。

 

なのに、この胸を焦がすのは恋。諦めきれぬ恋が、胸の中で暴れ出す。横から出てきた存在に奪われてなるものか、と心が吼える。

 

「許しが欲しいんなら、私が許してやるよ。どうせ神様なんかいやしないんだから」

 

その心に蓋をして、諦めていいものか。否、それは駄目だ、と。結衣の事をある意味一番知る、ママはロクデナシなりにぶっきらぼうに背を押して、結衣は誠也の心を奪う事を決意し、母親との決別も果たして。彼の心にアタックを仕掛けていく。

 

だけど、やっぱり誠也の心の中にはもう、亜理沙がいる。始まれなかった恋は、もう遅い。叶う筈もない。

 

「これは、今日の対価です」

 

だから、いつも通りに。自分達らしい形で。そういようと思った、その筈なのに。

 

どうも神様というか、運命と偶然を司る存在は彼等に対し意地悪であるらしい。予想外の方向から来たのは、誰にとっても予想外の相手。それは新たな波乱の合図。

 

 

より切なく痛ましく、更に深淵に踏み込む今巻。前巻を楽しまれた読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

朝比奈さんの弁当食べたい 2 (HJ文庫 よ 02-01-02) | 羊思尚生, U35 |本 | 通販 | Amazon