読書感想:理系彼女と文系彼氏、先に告った方が負け

 

 さて、この世の学校には文系と理系という括りが存在するわけであるが、画面の前の読者の皆様は文系、理系どちらであろうか。私はバリバリの文系である。そもそも理系科目は物凄く苦手であった。というどうでもいい話題はともかく、文系と理系というのは大別の枠組みなだけであってそこまで気にするべき枠組みでもない。しかしその枠組みというのは、時にドラマの起爆剤になるのである。

 

 

隣接していた二つの名門が合併された事で生まれた日本随一の進学校、私立峰藤学園。この学校には合併以来、理系と文系の水面下でのいがみ合いが続いていたが今は、一組のカップルの誕生により雪解けの期を迎えていた。文系トップの流星(表紙下)、理系トップの珠季(表紙上)というそれぞれのクラス一位同士というカップルが生まれ、少しずつ触発されるようにクラスを超えたカップルが生まれ始めていた。

 

「日本語は正しく使え理系」

 

「いちいち器が小さいのよ文系」

 

・・・だが、誰も知らない。実はこの二人はそもそもカップルですらなく、水面下でいがみ合っている事を。同じ演劇部の部長と副部長でもある二人は、打ち合わせを目撃され勘違いされ、やむをえず流星の製作した台本の元、偽装カップルをしているのである。

 

当然、この二人のいちゃつきは偽りである、しかしなまじ演技力が高いからこそ、周囲は誤魔化される。そして二人は共に、中々認めぬもお互いを意識し合っている同士である。

 

ならば素直になれば、話は簡単であるだろう。だが、素直になれない。お互いトップであると言う意識が邪魔をする。だからこそ二人は内心、それぞれ決意する。相手の方から告白してきたのなら、付き合ってあげない事もないと。

 

正に恋愛心理戦、かは分からぬが恋愛攻防戦であるのは間違いない。そんな二人は後輩である実々花に推されたり、紫燕に振り回されたり。更には流星の方は幼馴染であり、彼の弟の光星を溺愛する瑠璃にアドバイスを貰ったりしながら。今日もまた、演技を積み重ねていく。

 

だが、演技だけでは見えてこないものもある。効率を重視する珠季と、二次元から創作の糧を得る流星は時に方向性の違いですれ違ったりしながら。遊園地でのデートを迎える前、流星と瑠璃の関係を知らぬ珠季が、デートの準備をする為の二人のお出かけを目撃してしまった事で、小さな亀裂を迎えていく。

 

彼が誰といたっていいだろう。自分達は本当に付き合っている訳ではないのだから。だけど、嫌なものは嫌だと心が叫ぶ。そこに無自覚に紛れているのは、恋という気持ち。

 

「俺はおまえと一緒にいる時が一番楽しい」

 

そして、認めるのはちょっと癪だけど。相手と一緒に居る時が一番楽しい、それは確か。今は未だこれくらいしか言えないけれど、それは間違いないのである。

 

まだ明かせぬ、素直になりたいと言う思い。それが叶うのはいつの日か。

 

弾けて転がるようなコメディで腹筋を攻撃してくる中、ささやかなラブが可愛らしさを持っているこの作品。笑いが先に来るラブコメを見てみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

理系彼女と文系彼氏、先に告った方が負け (GA文庫) | 徳山銀次郎, 日向あずり |本 | 通販 | Amazon