読書感想:「キスなんてできないでしょ?」と挑発する生意気な幼馴染をわからせてやったら、予想以上にデレた

 

さて、とかくラブコメというジャンルにおいて、恋の始まりとなるパターンは数多い。婚約から始まる恋もある、再会から始まる恋もあり、秘密の共有から始まる恋もある。恋の始まり、それは千差万別と言っても過言ではない。ではこの作品は何から恋を始めるのか、と言うとであるが。タイトルにもある通り、キスからである。

 

キスという行為に確実と言っていい程付随するのは恋の感情。その感情があるからこそ、キスというのは結実の形として描かれる事も多いし、この作品のように変化の切っ掛けとして描かれる事も多いのである。

 

「ただの幼馴染だって言ってるのに・・・・・・どうしてこうも勘違いされるのかしら?」

 

とある学校の一番の美少女と呼ばれる少女、愛梨(表紙)。しかし彼女に恋をした男の気持ちは、叶う事もなく破られる。何故ならば彼女には一颯という幼馴染がいるから。それも、同じ日に同じ病院で生まれ今まで一緒に居る、というもはやあざといまでに幼馴染属性を煮詰めたような相手が。

 

 が、しかし。当の二人にとっては周りから「バカップル夫婦」と呼ばれる事が不満であった。そもそも別に付き合ってもいない。お互い二人で一人、まるで半身同士のような存在だからこそ意識することもない。口を開けばいちゃつきに見える煽り合いを今日も繰り広げる中。売り言葉に買い言葉で提案し承諾したキスが、二人の関係を壊し始めていく。

 

「・・・・・・気持ち良かった、かも」

 

否が応でも意識する、今まで弟分だった彼が確かに「男」であるという事。越えてはいけない一線を越えた、その自覚に混じるのは僅かな興奮。一度覚えてしまったその感覚は消えることはなく。普段の気安い関係の中に、僅かなノイズを混ぜていく。

 

対し、心の中にあるのはこのままでもいい、という願い。その根底にあるのは臆病。この半身のような関係が心地よいからこそ、それを変えたくないと言う思い。

 

そんな、二律背反する思いを抱えながら。周囲を取り巻く全員に恋人同士てあると言う共通認識の元に、生暖かく見守られながら。二人はいちゃつきにしか見えぬ、幼馴染同士のぶつかり合いを繰り広げるのである。

 

マンガの真似をして壁ドンをしてみたり、ドッキリで危うく仲違いしかけたり。プールに行ったら息ぴったり過ぎる勝負を繰り広げ、数年ぶりに連弾する事になったら、ブランクもなく息がぴったりと合って。

 

その全ての根底で、キスから始まる変わる思いが渦を巻く。その思いが心を焦がし続けるからこそ、いつもの気安さがどこか色を変えていく。お互い素直になれなくて、意固地に絡まり振り回していく。

 

「お前と一緒に居るのが、楽しいから」

 

嫌いだ、と建前を心が叫ぶ。お互いに持っていないものを持っていて、いつの間にかお互いを追い抜いていくお前が嫌いだ、と。ならばなぜ一緒に居るのか。それは楽しいから。何だかんだと一緒に居るのは嫌いになれぬから。好きだから。そう、認めていないだけで根底にはもうその思いがあった。キスはそれを目覚めさせただけなのだ。

 

だけど、やっぱりそう簡単に素直になれない。相手に告白させようとお互いにイニシアティブを取ろうとする。だからこそおしどり夫婦になる未来は、まだまだ遠い。

 

嗚呼、何と素晴らしい作品か。幼馴染ものの良さを全てまとめて煮詰めて真っ直ぐに深煎りしたかのようなこの作品。幼馴染ものだからこその甘さ、エモさを楽しみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

「キスなんてできないでしょ?」と挑発する生意気な幼馴染をわからせてやったら、予想以上にデレた (GA文庫) | 桜木桜, 千種みのり |本 | 通販 | Amazon