読書感想:お兄様は、怪物を愛せる探偵ですか?

 

 さて、古今東西の推理ものの作品の中で、古典として一つ上げるのならば、シャーロックホームズシリーズをあげられる読者様はどれだけおられるだろうか。古典的な探偵もの、推理ものは良いものである。では現代の推理もの、探偵ものに付随するようになった要素と言われて画面の前の読者の皆様は何をあげられるであろうか。

 

 

その答えはきっと、様々にあるのかもしれない。では敢えて私があげるのならば「超常的な力」、「怪異」とでもしておこうか。人類の知見、理解の及ばぬ世界の力。そういった要素が推理に絡んだ時、その謎は陳腐となるのかそれとも奥深くなるのか。文字通り何でもあり、ではこの作品ではどうなるのか、という事を見ていきたい。

 

二〇××年、六月六日。人口約十五万人の地方都市の住人がわずか二人を除いて全滅した、「災厄」と呼ばれる事件。その生き残りの一人である少年は、巨大な怪物となった幼馴染、朔を助け出す為に。少年は現れた男の提案に乗り、男の家族となり怪物へと変えた謎を解く為に動き出す。

 

「―――怪物は存在しない。今からそれを証明する」

 

「わたしはお兄様の助手だもん」

 

 それから十年、青年となった少年、葉介は「怪異」の謎を解き否定する事で怪異を封じる「お役目」を為しながら真実を追い求めていた。得られる情報は空振りばかりでも。その中、既知の相手である「捜査六課」の刑事である奏より新たな依頼が舞い込む。助手である妹、夕緋(表紙)と共に乗り込んだ山間の集落、伊地瑠村。かの場所で発生した放火と焼死事件の解決へと乗り出す。

 

村唯一の診療所の院長が焼死した一つの事件。その裏に疑われるのは、この村に伝わる「焔狐」という怪異の伝承。人に害をなし、いつしか人と共に生きて守り神となった怪異。事件の謎を村長の姪、由芽たちの協力を得て追いかける中。三年前の祭りに隠された謎、が絡みつき更には院長と密かにつながりのあった神主の焼死事件が発生する。

 

 三年前の祭り、そこに消えた由芽の祖母。事件現場で目撃されたのは、彼女らしき姿。だが死者は蘇らない、怪異となった訳でもない。ならば真実は何処にあるのか。これは怪異の仕業に非ず。この謎に絡んでいるのは、人間の汚い欲望なのだ。

 

「お兄様は―――どんな怪物でも愛してくれる探偵なんだから」

 

その真実は一つに非ず、全て解決せねば怪異は止まらぬ。葉介は夕緋と共に如何にして怪異を鎮めるのか。それは是非、自身の目で見届けて欲しい。

 

骨太な謎を解き明かす、異能バトル的な側面もある面白さのあるこの作品。謎解きに嵌り込みたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。