読書感想:あのね、じつは、はじめてなんだ。 ゆるそうでうぶな彼女との初体験まで、あと87日

 

 さて、恋愛の王道、恋愛のテンプレというのは時代によって変わるものであり、かつてのテンプレを知る者からすると新しいテンプレは目を疑うものであったりすることもある。昨今は性行為、も当たり前であるらしい。そんな今の常識も私からしたら驚きである。だけどそれもまた、ギャップと呼んでもいいのかもしれない。

 

 

この作品もまた、今の世のテンプレ、陽キャラたちの常識の中で繰り広げられるお話なのである。

 

「よくそこまでセックスに情熱を注げるよな。お前のそういうとこすげえと思うわ」

 

持ち前の秀でたルックスと天性の人たらしな面、更には属しているグループが性行為を既に済ませている陽キャグループであるのもあり、学校一のヤリチンと表される少年、隼。だが、親友だけが知るその本性、それは童貞。未だ初体験も済ませていない、それどころか気になる女子に話しかける事も出来ない純情チェリー君だったのだ。

 

「ありがと。じゃあ、彼女になってもいい?」

 

 だが、その純情はある日予想外の形で叶う事となる。気になる相手、学校一のヤリマンと噂される日和(表紙)。悪質なナンパから彼女を助けた事で、男除けの為にも付き合う事となったのである。

 

「い、いいよ。俺に任せて」

 

さて、タイトルから画面の前の読者の皆様ももうお察しであろう。日和もまた処女であることを。入学式で起きたとある出来事からお互いの事が気になっていた、しかし話しかけられぬうちにお互いに誤解されていた。しかもお互い、その事に気付いていない。だからだろうか。本当の姿を知らぬからこそすれ違い、アクシデントで外れたブラのホック一つ止めるだけでも、何故か心理戦の様相を呈していくのである。

 

ある時はランジェリーショップで、またある時は友人達の策略により取り残されたラブホで。お互いの想いをすれ違わせ、誤解を解けずもどかしく遠回りをしながら。ままならぬ恋路を二人は重ねていくのである。

 

そんな恋路に隼の幼馴染である志乃、バイト先の先輩であるちはるがちょっかいをかけ、二人の周りの面々の青春の情動にも触れられたりしながら。明かせぬ本当と思いは、もどかしさと空回りに繋がり。二人の仲を遠ざけるものとなってしまうのだ。

 

「実際に自分の目で見たものを信じて、自分の心で俺がどういう人間かを判断してほしいと思ってるよ」

 

けれど、心は離れなかった。切った筈なのに、その思いは途切れなかった。ならば何が必要なのか。自分が出した言葉に突き付けられる足りなかったもの。それはきちんと話し合う事、相手の本質を見る事。もう後悔はしたくない、その思いと共に駆けだしていく。伝える為に。

 

「俺も、大好きだよ」

 

色眼鏡もなく、何も阻むものもなく。文字通り丸裸、何も隠さず伝え合って。ようやっと本当の意味で二人の心は繋がる。ならばもう拒むものはなし。自然と二人の境界は溶け合い、初体験を交わすのである。

 

まるで溶け合い響き合うような、初々しくて可愛らしい青春の当たり前。そんな思いがこれ以上ない程に響いているからこそ面白いこの作品。心悶えさせたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

あのね、じつは、はじめてなんだ。 ゆるそうでうぶな彼女との初体験まで、あと87日 (ファンタジア文庫) | 日日 綴郎, みすみ |本 | 通販 | Amazon