読書感想:ゾンビ世界で俺は最強だけど、この子には勝てない

 

 さて、突然ではあるがどうやらラノベにおいて、ゾンビものは売れないと言う定説があるらしい。言われてみると、十数年ラノベを読んできた中でも、ゾンビものはほぼ見かけなかった気がする。それは何故であろうか。例えばマンガであれば、がっこうぐらし!等の名作があるのだが。絵ではなく、文字だと想像がしにくい、絵面にインパクトがない、等の理由があるのだろうか。

 

 

という定説はともかく、この作品はラノベにおいては珍しいゾンビものである。そして言うなれば「後輩×極限状況」といった感じのラブコメなのである。

 

夏も終わりかけ、そろそろ秋になろうかという九月。突然世界は滅んでしまった。突如発生したゾンビパニック、どこぞのバイオハザードのようにミサイルでウイルスが蒔かれた訳でもないのに、突如としてゾンビが発生し。主人公である少年、優真もまたゾンビに襲われかけながらも命からがら家に辿り着き。しかし家族は全員ゾンビとなっており、逃げだそうとした途端に噛まれてしまったのである。

 

「約束が違うじゃないですか! 責任を取ってください!」

 

 最早これまでか、ゾンビになるまでの最後の時間。そこで出会ったのは、かつての親友の妹である晴夏(表紙)。最後のいい経験として、彼女になってもらう事になり、死ぬのをいい事にちょっとえっちなお願いなんかしてみたりして。だが、いつまで経っても優真はゾンビにならなかった。それどころか人間とゾンビの状態を行き来できると言う、特異体質らしきものがあると判明し。結果的に晴夏に弱みを握られた事で、彼女のいう事を聞かされる、ウザ絡みをされる事になったのである。

 

だがしかし忘れてはいけない、既に世界は極限状態、気を抜いたら死あるのみ。晴夏の家を拠点にしつつ、ゾンビを殺さぬために捕縛する方法を模索する中、晴夏の父親がゾンビとなって帰宅し。他のゾンビとは違う行動を見せ動きを止めるも家が壊れた事で、拠点を変えざるを得なくなり。晴夏の通う女子校の寮に向かう事にし、一夜明けて移動を始める。

 

たどり着いた女子寮、出会ったのは寮を守っていた少女の舞、不真面目なリサ、内気なあゆみ。最初は警戒されるも、優真が誠実さを示した事で警戒を解いてもらい、二人揃って受け入れてもらい。新しい生活が始まる。

 

 だがしかし忘れてはいけない。外にはゾンビが大量、世界はいつも滅びかけ。そして、滅びは常に進行しているのだという事を。

 

食料調達に繰り出そうと思ったら、すぐに水道水が汚染され使えなくなり。更には助けを求めにやってきた女性を迎えた事で、ゾンビが寮内に入り込み、更には規格外の大きさのゾンビすらも現れ。

 

「さぁ、みんなの前でわたしのことが好きだと言いましょう」

 

正に阿鼻叫喚、これはもはや生存競争。大切な者を守る為、ゾンビとしての力も生かし躊躇なく殺す方向性にシフトし。全ては、晴夏を守る為。少女達に囲まれる優真を見、やきもちを焼くのも可愛い彼女を守るために。

 

だが勝てぬ相手が増えていく。不意を突かれ感染してしまった舞を人間に引き留める為、キスが必須となり。同じくウイルスを持つ者同士、彼女とも距離が近づいていく。

 

「先輩がわたし以外の女性と幸せになるなんて、絶対に許せません」

 

それを許せる晴夏でもなく、強気な態度で決意は後ろ向きに。

 

まるで縋るように、それが唯一の希望であるように。そんなラブコメが繰り広げられるのも、この作品がゾンビものであるからかもしれない。

 

割とリアルなパニックの中、繰り広げられるラブコメが見てみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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