読書感想:さあっ候補生さま、”王霊討伐”の時間です

 

 さて、死者が蘇ると言う事態は一見すれば一部の人には喜ばしいものかもしれない。だが普通に見ればどう見てもホラーな一大事である。実際、某SIRENは物凄く怖い、それこそトラウマになるほどに。ではこの作品は一体どんな作品であるのか。この作品は死者を力に、死者を狩るお話なのである。

 

 

十年前、世界は急に壊れだした。曰く、死者が蘇るという荒唐無稽なお話。だが、その噂はすぐにどんどんとオカルトな方向性を深め、噂で終わらなくなり。日本政府は、特異な現象が起きている場所を「異界」と呼び、それを創り出す幽霊を「悪霊」、人間に「霊器」と呼ばれる武器と異能の力を与える生前多大な功績を残した死者の霊を「善霊」と呼称し、「善霊」に選ばれた者を、悪霊の王、「王霊」を討伐する候補生として選抜したのである。

 

「まだ休憩中なんだよね? 暇だったらボクとお話しようよっ!」

 

「ならば、今すぐ候補生から辞退しろ」

 

 その「候補生」の一人であり、八年前の「異界事変」と呼ばれる事件により母親を失った少女、天理。しかし彼女が得たのは謎の善霊が与えた長剣型の「霊器」のみ。彼女が出会ったのは同じ候補生でありながらも一匹狼である少年、ハルトとその契約霊である善霊、リシア(表紙)。コミュニケーションを取ろうとするもすげなく断られ。不満を抱く間もなく、初めての作戦である異界攻略が始まる。

 

「―――それがどうした」

 

初めてのチーム、初めての仲間。だが、ループする異界で目撃するのは、歪んだ人間の精神。それを目撃する天理の目の前、ハルトは悪霊を対象とする「殺し屋」の姿を現し。味方を極力巻き込まぬ最短の手で、あっという間に悪霊を狩る。

 

彼に感じる脅威、だが同時に感じるのは彼と手を組める可能性。彼女の知り得る限りの情報と、彼女の推理力を対価に協力を申し出。メリットが一致した彼等は手を組み、犯罪者でもある候補生、頼隆も仲間になり結果的に三人チームが成立するのである。

 

彼女等が向かうのは、孤島の如き異界。そこで巡るのは人の思惑、悪意。新興宗教の教祖である候補生、銅算のチームと協力し、裏切り者の影を追いながら悪霊の秘密に迫っていく。

 

「―――目障りだから、蹴飛ばしても仕方ないよねぇ?」

 

 だが、天理はまだ知らなかった。悪意は既に巣食っている、だが最も危険なもの、全ての元凶はすぐ側に居た事に。その力、正に圧倒的。全ては黒幕の気紛れな掌の上。その敵を打倒する為、黒幕を利用しながらの謎解きが始まるのである。

 

知性を持つ悪霊との騙し合い、読み合いなバトルで燃える中、明かされる真実に背筋震えるこの作品。骨太なバトルが読んでみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

さあっ候補生さま、“王霊討伐”の時間です (MF文庫J) | 藤木 わしろ, にの子 |本 | 通販 | Amazon