読書感想:ステラ・ステップ

 

 アイドルが戦場で歌う作品はマクロスである。アイドルがロボットに乗り戦う作品は・・・まぁ言うまい。アイドルがステージで歌う作品は、Re:ステージ! 又はシャインポストである。と、まぁアイドルというのは創作の世界においては歌う舞台は多岐にわたる訳であるが。この作品もまた、アイドルのお話である。だが決して、煌びやかな世界で踊っている訳ではない。寧ろ、この作品のアイドルが躍る世界は悲しい世界、と言えるかもしれない。

 

 

それは一体どういうことかと言うと。作品の時間軸が始まる数十年前、いくつもの隕石の落下により国は滅び。 幾つもの国が乱立する中、隕石の中より見つかった、「人の感情に反応してエネルギーを発する」性質を持つ「共心石」という存在が全てを変えた。滅びかけた世界の中、人々に元気と希望を齎す為に歌った「アイドル」の影響力に国が目をつけ、あっという間にアイドルとは戦争の道具になってしまったからだ。共心石で作られた人形が観客となる舞台で、覇権を争うアイドル達は、力なき者は淘汰され、コードネームでしか呼ばれぬ道具として、使い潰されていたのである。

 

「うん。ごめんね。誰だか思い出せなかった」

 

そんなアイドルの一人であり、「砂の国」の最強、絶対無敗のアイドル、レイン(表紙左)。まるで氷でできた人形のように踊り、アイドル活動以外に価値を見出さぬ彼女に土をつけた存在。それはデビューしたばかりの少女、ハナ(表紙右)。今では滅んだはずの「きらきら」を体現する彼女に敗北を喫し。それまで人形のようだった彼女に、確かに感情が芽生えていく。

 

それは今まで失っていたもの。勝ちたい、知りたい、当たり前の感情。その思いを知りたくてハナに接近し、関わる事で感情を取り戻していく。だがそんな中、秘密の花園でハナの姉である一花と、母親である椿との出会いで、芽生えていた不穏の予感は、一気に芽吹きだす。

 

まるで人形のような一花、彼女が罹患した、アイドルに罹りやすい病、「星眩み」。その病に隠された真実と繋がるのは、観客を務める共心石の人形の真実。悍ましいまでのその事実に、レインも意図せずして関わっていたと知る中、レインを守り導くマネージャーと、椿の関係も明らかになっていく。

 

幾度となく揺さぶられ、心乱され。それでも、知ってしまった彼女の輝きを手放すことは出来ぬ。国の意に反してユニットを組み、例え国を裏切るとしても。ライバルである「鉄の国」のアイドル、フレアとのバトルの中で世界に反旗を翻すかのように、歌声を重ねて響かせる。

 

「・・・・・・みんなに愛される、最高のアイドルになろうね、ハナ」

 

・・・だが、最後に。知りたくもなかった、最悪の真実が牙を剥く。知りたくもなかった、「   」が、―――だったなんて。その全てが、今まで重ねてきたもの全てが。「    」を、―――ものだなんて。

 

思えば最初から警戒すべきだったのだ。そも、入間人間先生の推薦という所からして。そして彼女の本名からして。 作者と私を信じろ、確かに信じるべきかもしれない。愛だよ、愛。ああ、確かに愛だろう。愛だろう、けれど。 それはあまりにも。だがもう物語は始まっている。花と雨は、果たしていつかきらきらの足跡を刻む星になれるのか。

 

真実を伝えることは出来ぬ、知りたくば皆様自身の目で見届けて欲しい。だが、覚悟は必要である。

 

この作品、ジャンルは何か。明確な答えはありはしない。だが言うなれば、「愛」の物語である。心突き刺し抉って、消えぬ傷跡を刻んでくる物語なのは確かである。

 

心抉られ、傷つけられたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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