読書感想:じょっぱれアオモリの星 おらこんな都会いやだ

 

 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様は日常的に「方言」というものを使われているであろうか。少しならば使っているかもしれない、だががっつりと使っている読者様はそうはおられないかもしれない。そして、例えばライトノベルにおいて、地方が舞台となる事はあっても基本的に登場人物が使うのは標準語である。それは何故だろうか。やはりそれは、方言というのは地域によっては表現が難しく、文章にしても分からない場合が多いから、かもしれない。

 

 

では、そんな方言をもし真面目に文章にしてしまったらどうなるのか。簡単である、とんでもない事になる。そのとんでもない事になっているのが今作品なのである。

 

魔物や冒険者、ギルドが存在するザ・異世界と言った感じのとある異世界。かの世界のとある国の王都に存在するギルド。そのギルドに長年所属していた中堅魔導士のオーリン(表紙左)は、ギルド長であるマティルダにより無情にも追放を宣言されていた。

 

「な、なすて―――!?」

 

 が、それは彼が悪い事をしたからでもなく、冤罪を押し付けられたからという訳でもない。寧ろ彼は性格的にもごく普通、悪い人間ではない。では何故か。それは所属していた長年の間、どうしても訛りの強すぎる方言が直らなかったからである。

 

この国の辺境に存在する地方、アオモリ。その方言である、つまりは津軽弁。それが存分に発揮された結果、文章にするとどう見ても東北の人しか分からなくないかとツッコミたくなるような文面となり。無論コミュニケーションが難しく連携も取れないと言う理由で、苦渋の決断で追放になってしまったのである。

 

アオモリにギルドを作りたい、そんな願いの為に諦めず頑張れど、身につけている方言を捨てることは出来ず。

 

だが、捨てる神あれば拾う神あり、とでも言えば良いのか。オーリンの事が気にかかり、彼の事を追いかけてきた新米冒険者、レジーナ(表紙右)。生まれも育ちも都会っ子な彼女が身に着けていた用途不明のスキル、「通訳」。そのスキルを通じ、発揮されるのはオーリンの真価。日常生活で禁呪を使うような魔境で育った彼の、言葉が通じないと言うハンデを乗り越え発揮される、Sランク冒険者を軽々と一蹴する程の力。

 

そんな二人はコンビを組み、共に依頼へと向かっていく事となる。彼等の前に立ち塞がるのは呪術で操られたフェンリルや、暴走する街の守護竜である飛竜。

 

「わかったならよーく覚えときやがれ、このべらぼうめィッ!」

 

 次々と襲い掛かる脅威の中、三大強情の一角とも呼ばれる津軽じょっぱりを発揮するオーリンに時に置いて行かれそうになりながら、負けないと言わんばかりに江戸っ子ぶりを見せつけ、アオモリの女並みに我を押し通し。少しずつ運命共同体となりながら、脅威に立ち向かっていくのである。

 

異世界でアオモリをするとこうなる、一見すると絶対に読めない程の方言飛び交う地の文の中、描かれるのは真っ直ぐなファンタジー。故にこの作品は心に残ると言える。

 

心に色々な意味で刺さるファンタジーを読んでみたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

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