読書感想:美少女にTS転生したから大女優を目指す!1

 

 さて、言うまでもないが今の時代は、SNSが一般に浸透しているし、スマホや携帯電話も一般的に普及しているので通信手段には事欠かず、連絡したい時には連絡できるし、遠く離れていても気軽に会話できる時代である。だがしかし、我々は歴史の教科書の中でしか知らぬ時代であるが約半世紀前は、そんな便利なものは悉く無かったのである。

 

 

・・・さて、何故こんな前置きになっているのかという事であるが。それは簡単である。この作品が昭和終盤から平成初期という、ラノベとしては珍しい時代を舞台にしているからである。

 

松田圭史、三十九歳。不細工デブ。容姿に関し言ってしまうと散々である彼は、過去に演者を目指すも夢破れ、原因不明の病で寝たきりになり。後悔を抱えながら、ただ死を待つばかりであった。

 

「ならばやってみるがよい、一度だけチャンスをやろう」

 

 もし女性に生まれていれば、そんな夢のような願い。しかしそんな願いを神様としか言えぬ何者かが聞き届け。彼は気が付けば、すみれ(表紙)という女の子として、生まれた所からやり直していたのである。

 

演者を目指した経験を生かし、幼子の演技をしながら状況把握に努め。が、もう一度夢を叶えたいと願っても、そも家庭環境に変化がある訳でもなかったので、大きな動きは出来ず。チャンスの際に力とするため、前世の反動と言わんばかりに色々な事にチャレンジしながら。前世も今生も幼馴染である、なおとふみかという二人の少女と過ごしながら。子供達の面倒を見る立場になったり、子供らしく冒険を繰り広げたり。子供らしい賑やかな日々を過ごすすみれ。

 

 だが、チャンスは意外と早くにやってくる。前世とは違い今生ではすみれを疎ましく思う姉の手により、勝手に応募された全日本美少女オーディション。両親を説得し、予選会場である東京で実力を示し。高名な映画監督である神崎に認められ、囲い込みの誘いを受け。更には大女優である大島あずさに門下生への誘いを受け。すみれの前には飛躍の道が開けるのである。

 

ここで重要なのは、この時代がまだ平成にならんとする頃である。この時代においては、そもそも移動手段もそこまで早くないし、通信手段を誰しもが持っている訳じゃない。故に一度離れてしまうと、それが今生の別れとなっても仕方がないこと。

 

「わたし、やってみたい」

 

 だけどそれでも、すみれはチャンスに手を伸ばす。願った夢を掴み取らんと、まだ見ぬ夢を追い求め、芸能界へと羽ばたいていく。

 

正にヒューマンドラマ、まるで一本のドラマを見ているような骨太な面白さのあるこの作品。人生のお話を見てみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。