読書感想:Vtuberってめんどくせえ!

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 さて、この世界にはネットリテラシー、及びネチケットという言葉が存在する。その意味は自分で調べていただくとして、確かに何かへの好きを、愛を叫ぶのは大切な事である。しかし叫び方を間違えれば時にそれは刃となり、誰かを傷つけてしまう。嫌いだとしても、それは仕方ない事でも。叫び方を気を付けなければいけない。ただ叫ぶだけでもしそれが取り返しのつかぬ結果を招いてしまうとしたら、それは自分自身の責任。ネット上で発言するのならば、それなりの責任と道理を以て発言すべきなのである。

 

 

Vtuber。それは推しというものがいる存在であり、ファンの存在は正に大切であるもの。だがしかし、ファンの考え方は時に毒、凝り固まった愛は時に刃となる。

 

 その刃に晒されてしまったのがこの作品の主人公、零である。弟を溺愛する家族に家を追い出され、叔母である薫子に拾われ。彼女に誘われ彼女が所長を務めるVtuber事務所、「CRE8」からデビューした「蛇道棺」としてデビューした少年である。

 

何故彼は刃に晒されたのか。それは「CRE8」が女性しかいない事務所であり、彼こそが初めての男性であったから。「箱推し」と呼ばれる者達にとっては当然許せるはずもなく。初配信から視聴者の悪意に晒され非難轟々、初配信から大炎上してしまったのである。

 

予想されてはいたがどうにも堪えるものがあり。しかも大炎上は一度火が付いたなら中々消えず。同期のVtuber芽衣(表紙右)とのコラボ配信も心無いバッシングが続いたことにより流れてしまう。

 

 何をしても火にガソリンをぶち込むようなもの。少しずつ認めてくれる人はいるけれど、やはり世間は受け入れぬものばかり。しかもその火は飛び火し、芽衣とその中の人である有栖(表紙左)にも燃え移り、彼女達の配信もまた炎上してしまう。

 

心無い言葉に襲われ倒れてしまう有栖。お見舞いの場で彼女が語った、彼女の始まりの理由。それは零にとっては眩しいもの。だからこそその光を消させるわけにはいかぬ、消させていい訳が無い。

 

「目の前で誰かが悲しむ姿を見るくらいなら、自分が焼かれることの方を俺は選ぶね。そっちの方が痛くねえんだから」

 

 事態の裏、糸を引くのは個人Vtuberであるマリ。芽衣を愛するがあまり押し付けの偽善に酔い、自分の正義を妄信する者。圧倒的アウェイから始まったコラボ配信、周りは全て敵だらけ。その状況の中、零は冷静に怒りを見せ、冷徹な正論で視聴者もマリもまとめてぶった切り。自分の意志で乱入した芽衣と二人、マリへとその過ちを突き付ける。

 

それは正に彼にしか出来ぬ事。誰かの影に隠れ、それでも誰かを見る事を諦めなかった彼だからこそ出来た事。

 

正に毒、そう言わんばかりの悪意がこれでもかとストレートに描かれるシリアスの中、逆転のカタルシスがあるこの作品。

 

心が痛くなるのも厭わぬという読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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