さて、つい少し前に登録者数669万人を誇る大人気youtuberグループのリーダーである青年と、国民的アイドルグループの元メンバーの結婚が発表されたわけであるが、ファンの皆様はきっと素直にお祝いされたと思うので良いとしてあの結婚は一種のドリームの結果であろう。そしてあれも即ちラブコメであるとするのなら。ラブコメとは、子供だけのものとは限らないのだろう。
そう、限らないのである。昨今ラブコメ界では大人と子供の年の差ラブコメが増えていたり、大学生同士というちょっとお高めの年齢層のラブコメも描かれている。となると、やはりラブコメというのは何歳からでも始められるものであるのだ。
だがしかし、この作品は中々に珍しいと言える。何故ならば主人公もヒロインもアラサーだからである。アラサー、というとどんな年代か。それは世の中の酸いも甘いも一通り味わった頃であり、社会の歯車として生きる事が定着し始めている頃、といえる。
「―――私、アイドルを辞めたいんです」
そんな無味乾燥とした日々を生き抜くには何が必要か。それは生きがい、熱中できるもの。中小文具メーカーの社員、吾郎にとってそれはアイドルの推し活。だが推しである大人気アイドルグループの最年長メンバー、愛未(表紙)に突然の熱愛疑惑が発生し。だがその疑惑写真を見れば、そこに写っていたのはまさかの自分。訳も分からぬままに彼女に呼び出され、告げられたのはアイドルを辞めたいと言う相談だったのである。
そこにあったのは一般人では見れぬアイドルの闇。人気になるにつれてアンチも増える、誹謗中傷も増える。そこに触れすぎて疲れた彼女の相談を受け、吾郎はファンとして思いを飲み込みながら、彼女の決断を応援し。愛未はアイドルの世界に思う所を残しながら、煌びやかな世界を去った。
それで二人の関係は途切れた筈、だった。だが吾郎の会社でモデルの仕事で愛未を起用した事から二人の縁は繋がり。更には二人の仲を危惧する謎のスタイリストの手により、愛未の新たな舞台の道は唐突に開け。二人はそれぞれの立場で、復帰という事について思い悩む事となる。
彼女の傍にいることは、果たして正しい事なのか。一ファンとして、彼女とどう接していくべきなのか。
闇の深い芸能界、支えてくれたのは彼の言葉だけ。その彼を、離していいのか。自分にとって、本当に大切なことは何なのか。
ファンと自分、アイドルと自分。今まで交わらなかった顔同士が交じり合う中。二人の中、見つめていくのは自分の思い。何もかも、言い訳の一切合切を取り払って、そこに残った思いは何か。
「あなたの、たった一つの幸せになりたい」
社会の歯車として廻り、擦り切れて欠けたその心。その欠落にいつの間にか、お互いがいた。君の為なら頑張れる、そう確信できる思いがあった。だからこそもう手放したくない。この温もりを失いたくない。それはラブコメ、というのは違うのかもしれぬ。言うなればこれは、「純愛」なのである。
どこか擦れた、故にしっとりとして温かい愛があるこの作品。若者のラブコメの甘さに食傷気味な読者様は是非。
きっと貴方も満足できるはずである。
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